サイゼ元社長が目指した「飲食店版のユニクロ」 おいしい野菜を安く安定的に供給できる仕組み
■食材までさかのぼって改善を積み重ねる トマトの例からもわかるように、食材の品質向上やコスト改善のためにはいろいろなことを変えていく必要があります。 生産プロセスを全部手がけているサイゼリヤだからこそ、できることです。 一般に、新しいメニューを開発するときは、必要な食材をどこから調達するかが課題になります。 規模の大きなチェーンの場合、安定供給を優先するなら、契約農家との取引を中心とし、大量購入によるバイイング・パワーを活かして、そのときいちばん安いものを買って仕入れコストを下げる戦略も当然、視野に入ってきます。
ただし、安さによって仕入先を頻繁に変えると、どうしても品質にムラが出てきます。いつも同じ味、同じ品質のものを提供したければ、仕入先を固定したほうが安心です。 とはいえ、ただ同じ農家から買えばいいというわけでもありません。 より使い勝手のいい品種に改良し、農家ごとに生産量や納入時期を適切に割り当てるなど、生産プロセスに直接関与しているからこそ、圧倒的な安さと品質、そして安定供給という、簡単には真似できない強みとなるわけです。
食材の生産、調達、加工、物流、店舗での提供に至るまでを一気通貫で手がけるサイゼリヤは、バーティカル・マーチャンダイジングを標榜しています。 どこまで上流にさかのぼれるかを追求していくと、最後は食材そのものに手をつけるしかない。逆にいうと、食材から手を入れているから、向かうところ敵なしになるのです。 ■“レストラン版のユニクロ”だからできること 私はもともと化学プラントの生産技術者でしたから、新しいメニューを考えるときも、料理人や外食業の人たちとは発想のベースが違うようです。
はじめにレシピありきで、必要な食材の仕入先をその都度考えるのが対症療法的な発想だとすると、食材までさかのぼって、それを技術で解決しようという姿勢は、一般化そのものです。 サイゼリヤが目指しているのは、ユニクロで知られるSPA(アパレル版の製造小売業)のレストランバージョン(SPF:フード版生産小売業)に近いかもしれません。 製造プロセスを原材料にまでさかのぼって、技術で解決するという姿勢はよく似ていると思います。
ただし、ユニクロの素材開発には化学メーカーが関わっていると聞きますが、サイゼリヤの野菜栽培は完全自前主義です。そこまでやるから差別化できるのです。 サイゼリヤのことを、ただの安いイタリアンレストランだと思っている人は多いかもしれません。 でも、その裏側には、おいしさと安さを生み続ける確固たる仕組みがある。サイゼリヤは魔法ではなく、技術と知恵によって「奇跡の会社」となっているのです。
堀埜 一成 :サイゼリヤ元社長