ガザを「引き続き注視」の態度で良いのか ジェノサイド予防の研究者が考える、「砦」の日本が目指すべき立ち位置
「人道的な視点に立った政治判断」の前例はある
━イスラエルに武器を供給している国や企業に対し、国際社会からは批判の声が上がっています。日本も無関係ではなく、防衛省はイスラエル製のドローンの輸入を検討しています。 私の専門外なので発言は控えたいのですが、一般的にこれは防衛省ではなく、政治の側の問題だと私は捉えています。シビリアンコントロール(文民統制)は、民主主義国家の基本です。 私は、防衛省のしかるべき立場の方々が、過去の戦争の大きすぎる教訓から国際人道法を徹底して守るべきという立場にいることも知っています。こうした局面で、道義的な観点や人道上の視点を一切持ち出さない日本政府の姿勢こそが問われるべきだと考えます。 人道上の視点に立って政治的な決断をした前例が、日本にもあります。 1997年9月、ノルウェーのオスロで開催中の対人地雷禁止条約の起草会議で条約案が採択された後の記者会見で、当時の小渕恵三外相は「カンボジアの地雷除去に協力する一方で、条約は認めないというのは、筋が通らない。世界の大きな趨勢(すうせい)を踏まえてやるべきことはやらなければならない」と述べ、条約に参加しないという政府方針に異を唱えました。 小渕さんのこの発言は、一部で「失言」と批判もされましたが、条約加入に消極的だった流れを一変させました。そして日本は同年12月、条約に署名しています。 アメリカが加入していないことから、この日本政府の判断はアメリカの公人たちからも衝撃を持って受け止められました。日本の政治家が、そうした道義的な決断をした時代もあったのです。 小渕さんは、日本がカンボジアの地雷をなんとかしようと支援している一方で地雷を廃絶しないのはおかしいという、極めて素朴な問題意識から、真っ当な判断をされたと思います。 対人地雷と、ドローンやその他の兵器、ICCに対する立場、あるいは難民受け入れを単純に比較することも、全てを同列に語ることももちろんできませんし、すべきでもありません。しかし、日本にも人道上の観点から政治的判断をした過去があることを、私たちは今こそ思い起こす時ではないかと思います。 ▽長有紀枝(おさ・ゆきえ) 立教大学大学院社会デザイン研究科・社会学部教授。認定NPO法人「難民を助ける会」(AAR Japan)会長。研究者および実務家として、ジェノサイド予防や人道問題、紛争地の緊急人道支援、地雷対策などに携わる。著書に「スレブレニツァ あるジェノサイドをめぐる考察」(東信堂)、「入門 人間の安全保障」(中央公論新社)など。 【取材・執筆=國﨑万智】