「サバイバル漫画」が描く“災害で崩壊した世界” 『ドラゴンヘッド』『サバイバル』『望郷太郎』が担う役割
■文明社会が崩壊したあとの世界を描く『望郷太郎』 昭和、平成に描かれたカタストロフの要因は、主に大地震や核戦争であった。しかし、令和以降においては気候変動がその要因となりうる。ゲリラ豪雨や巨大台風は現実のものとなっているし、将来的には水没する都市や国が出てくることも危惧されている。 山田芳裕『望郷太郎』(2019年~)は、そんな気候変動により文明社会が崩壊したあとの世界を描く。主人公は、巨大企業創業家の7代目・舞鶴太郎。グループ企業のイラク支社長として赴任中に未曾有の大寒波に襲われ、妻子とともに地下シェルターの冬眠装置に入る。しかし、目覚めたときにはなんと500年もの時が流れており、別のカプセルに入っていた妻と息子は電源停止により死亡していた。
一人生き残った太郎は、悲嘆に暮れながらもシェルターから出る。建物内に人影はなく荒れ果てた状態。ビルの屋上から見渡す街は、雪に覆われた廃墟だった。やり場のない怒りと絶望に包まれる太郎。それでも故郷である日本をめざし、無人の荒野へと旅立つ。 ビジネスマンとしてはやり手でも、サバイバル能力があるわけではない太郎にとっては過酷な旅だ。食料は底を尽き、野生の動物を捕らえることもできない。どこかに人がいればと願えども、出会うのは白骨化した死体だけで、疲労と空腹は募るばかり。ついには容赦なく降りしきる雪の中で行き倒れてしまう。
もはや一巻の終わり……と思いきや、ここで初めて太郎以外の人間が登場する。毛皮を着込み馬に乗った二人組に拾われ、彼らの住処に運ばれる太郎。そこで仮死状態から目を覚ました太郎は、人に会えた喜びに打ち震える。さらに、久しぶりの食事にありついて涙を流しながらほおばる歓喜の表情は、“食べること=生きること”という生物本来の姿を強く印象づけずにおかない。 かくして、パルとミトと名乗る二人とともに石器時代のような狩猟採集生活を送ることになる太郎。そこで問われるのは金や地位ではなく、太郎に欠けていた「生きる力」だ。ところが、物語は思わぬ方向に転がりだす。猛獣との戦いののち、パルの出身地である「西の村」を訪れたところから、隣村との争い、より大きな村による侵略など、集団同士の紛争に太郎は巻き込まれていく。