「サバイバル漫画」が描く“災害で崩壊した世界” 『ドラゴンヘッド』『サバイバル』『望郷太郎』が担う役割
いきなりそんなことができるのもすごいが、竹と蔓草で弓矢を作ったり、折れ釘で釣り針を作ったり、ワナを仕掛けて獲ったウサギの皮をなめしたりと、どんどんスキルアップしていく。あげくの果ては、石弓や投槍器でクマやカモシカを倒して解体し、肉を燻製にして保存するところまでやってのけるのだから、たくましいにもほどがある。 そんなある日、少年が暮らす島にボートが漂着。中には若い女性が横たわっていた。大異変以来、初めて自分以外の生きている人間に会って感涙にむせぶ少年。が、彼女から日本が壊滅状態であることを聞かされ、ショックを受ける。それでも彼女が持ってきた缶詰や米で久しぶりに文明の味を堪能し、孤独感からも解放された。サバイバル生活に慣れない彼女の甘えやわがままに悩まされながらも、年上の女とひとつ屋根の下で暮らしていれば、思春期の中学生男子としては当然、悶々とするわけで……。
その後の二人の関係はご想像にお任せするが、やがて少年は手作りイカダで島を出て本土へと渡る。廃墟となった街に衝撃を受けながらも、線路沿いに東京へと向かう。そこで出会った人物から家族が生きているかもしれないという情報を得た彼は、家族を探すためにまた旅立つ。行く先々でいろんな人間と出会い、親切にされたり、ひどい目に遭ったりしながら旅を続ける。それはまるでロードムービーのような味わいだ。 〈サバイバル――生き残るためには、たくましく“創造的”でなければ、ならないのである〉とナレーションで語られるとおり、少年は創意工夫でさまざまな道具を作り出し、何があってもあきらめない。文明社会が崩壊した中で一人で生きていく術を身につけ、いろんな面で成長していく少年の姿は、混沌とした当時の世の中にひとつの模範を示してもいた。
■パニック状況下の異常心理を描く『ドラゴンヘッド』 1985年(昭和60年)のプラザ合意を機に、日本はバブル景気に突入していく。しかし、ふくらむだけふくらんだバブルは、平成に入ってすぐに弾けた。それでもしばらくは余熱に浸っていられたが、1995年(平成7年)に起こった阪神・淡路大震災と地下鉄サリン事件によって、安穏とした世界観は完全に破壊される。 それを予見していたかのようなカタストロフ大作が、望月峯太郎(現望月ミネタロウ)の『ドラゴンヘッド』(1994年~2000年)だ。修学旅行帰りの中学生・テルを乗せた新幹線が(大地震と思われる異変が原因で)トンネル内で大事故を起こす。暗闇の中で意識を取り戻したテルだったが、周りは死体だらけ。マグライトの灯りを頼りに車外に出てみると、トンネルが前後とも崩落しており、閉じ込められてしまったことを知る。