新聞購読者が読んでいるのは「お悔やみ」欄だけ、会社を畳み副業に身を投じた60代・新聞配達員の希望
■ 購読者の目当ては「お悔やみ欄」 Kさんは年金を受給する70歳まで新聞配達を続けたいという。ただ、新聞の購読者は60代後半以上の高齢者ばかり。配布数は急速に減少している。 「高齢者が新聞を取っている理由は、ニュースを見るためではないんですよ。みんな『お悔やみ』欄を見ているんです。田舎ですから、香典をもらっている人には返さなければという義理があるので」 高齢者にとっては「知り合いの誰それが死んだ」というのがニューストピックなのだ。 「子どもが生まれた」「人を探しています」。かつて新聞は地域のコミュニティを支える役割も果たしていた。だが今は、喜びも悲しみも、自慢話や怨嗟や呪詛まで、SNSで流れてくる。もはや新聞の役割は、本人がSNSで流せないお悔やみ欄だけである。 それでもKさんは、今朝も新聞を届ける。夜明け前の空に光の放物線を描く、「きぼう」という名の国際宇宙ステーションに見守られながら。 若月澪子(わかつき・れいこ) NHKでキャスター、ディレクターとして勤務したのち、結婚退職。出産後に小遣い稼ぎでライターを始める。生涯、非正規労働者。ギグワーカーとしていろんなお仕事体験中。著書に『副業おじさん 傷だらけの俺たちに明日はあるか』(朝日新聞出版)がある。
若月 澪子