新聞購読者が読んでいるのは「お悔やみ」欄だけ、会社を畳み副業に身を投じた60代・新聞配達員の希望
■ 新聞配達の副業で得ている驚きの月収 Kさんは筆者が取材を申し込んだ一週間前、新聞配達中に事故に遭った。顔には上唇から鼻にかけて痛々しい傷跡。インタビューの日程を変えようかと申し出たが、「配達を休んでいるから暇です」と言って応じてくれた。 「配達用バイクは崖の途中に引っかかって廃車です。新聞は血まみれになって周囲に散乱していた。朦朧としながらスマホを取り出し、新聞販売店に電話したら15分くらいで救急車が来てくれた。その後のことはよく覚えていませんが、入院はしないですみました」 とはいえ事故直後は地面に血だまりができ、顔は腫れ上がる大怪我。それでも、手足は打撲ですんだため、Kさんは週明けから配達を再開するという。 Kさんの休業中、新聞は他の配達員が朝8時くらいまでかかって配達している。現場はメンバーが一人でも欠けると回らないのだ。 「私の勤める新聞販売店の配達員は、ほぼ全員が60~70代。60代前半の自分は若いほうです」 朝2時に起き、3時~5時半までの2時間半、自宅から半径5キロ範囲を配達する。70代が任される部数は30部ほどだが、「主力」のKさんの配布数はおよそ100部だ。 時給は長崎県の準夜勤の最低賃金で1100円ほど。1日3300円、月収はおよそ9万円である。 「僕が配達するエリアは、住宅地だけでなく高低差の激しい山間部も多く、車では行きづらい。天候が悪いと前が見えなかったり、嵐で木が倒れていたり、橋が落ちていたり。街灯がLED照明になってからは、まぶしくて前が見えづらく、飛び出してきたタヌキをバイクでひいてしまったこともあります」 一晩に1回はタヌキ、アライグマ、イノシシなど、野生動物に出会う。雨や風などの自然の脅威と隣り合わせ。Kさんが配達中に事故を起こしたのは、今回が2度目だという(タヌキ事故を入れると3回目)。 「1回目は新聞配達を始めたころにバイクで転倒し、ろっ骨を折りました。普段からケガだけはしないように気を付けていたのですが……」 妻と90代の父と三人暮らし。Kさんは新聞配達のほかに、駐車場の賃料収入が月10万円ほど、ネットのクラウドソーシングの内職で月に数万円の副収入もあり、合計で月20万円ちょっとになる。しかし、いずれも安定した収入ではない。