少年期の記憶とキッカケ戦略――ガンバ大阪が欧州クラブとの親善試合を続ける理由
楽しみ方の価値観は多様でいい
スマホ1つで国内外の選手プレー動画にアクセスできる時代。子ども達にサッカーへの興味を持ってもらうためのハードルは伊藤の少年期よりも高い。開催が直前に迫ったレアル・ソシエダ戦は飽和状態とも言える今夏の欧州クラブの来日ラッシュによる関心の分散や、同日に大阪天満宮で開催される天神祭りの影響もあり、チケットの売行きは苦戦しているという。 それでも――。 「なんかチケットが売れるアイデアあったら教えてーや」と語る伊藤の表情は明るい。ガンバ大阪が万博記念競技場を使用していた時代、場内管轄の問題でスタジアム内の飲食店を増やせない課題に対して「じゃあ、スタジアムの場外に飲食店街をつくったらええんちゃう」と最大20店舗が並んだ『美味G横丁』を発案したアイデアマンは逆境を楽しんでいるようにすら見える。 「クラブ経営の王道はピッチのフットボール自体の魅力を高めること。だけど、グルメ、音楽、マスコット、イベント……楽しみ方の価値観は多様でいい。お父さんとお兄ちゃんはフットボールが好きだけど、妹は音楽が好きで、お母さんはスイーツが好き……だからみんなでパナスタに行こうとなればいい。SNSの影響もあるでしょうけど、パナスタで楽しい時間を過ごした証拠となるようなものを増やす必要性は感じます。どんなキッカケでも1回スタジアムに来てもらうことができれば、サッカーの魅力も少しは記憶に残るはず。ガンバやパナスタの名前を知っていても、(スタジアムの)中に入ったことがない人はホームタウンにまだまだ沢山いるので、今回のレアル・ソシエダ戦もキッカケとしてガンバを好きになってくれる人が1人でも増えたらいいですね」
伊藤慎次プロフィール
SHINJI ITO 伊藤慎次 パートナー推進部 部長。三重県・菰野町出身。四中工から東海大を経て、1990年に松下電器産業(株)に入社。ガンバ大阪の前身である松下電器産業サッカー部(JSL)時代からJリーグ事務局への出向を含めクラブ在籍34年目。公益財団法人日本センチュリー交響楽団 社外相談役でもある。 [ライタープロフィール] 玉利剛一(たまり・こういち) 1984年生まれ、大阪府出身。関西学院大学卒業後、スカパーJSAT株式会社入社。コンテンツプロモーションやJリーグオンデマンドアプリの開発・運用等を担当。その後、筑波大学大学院でスポーツ社会学領域の修士号を取得。2019年よりフットボリスタ編集部所属。ビジネス関連のテーマを中心に取材・執筆を行っている。 Photos: (C)GAMBAOSAKA
玉利剛一(フットボリスタ編集部)