少年期の記憶とキッカケ戦略――ガンバ大阪が欧州クラブとの親善試合を続ける理由
1度生で観てもらう”キッカケづくり”が出来ればハマる可能性がある
伊藤が欧州クラブとの親善試合に意義を感じている理由は他にもある。それは少年期まで遡る。30年以上ガンバ大阪で働くことになった原体験ともいえる記憶だ。 「僕は三重県出身なので、初めて生で観たプロサッカーの試合は1983年に瑞穂陸上競技場で開催されたイングランドの古豪ニューキャッスル・ユナイテッド-ヤマハ発動機(JSL)の試合。当時の設備なので電光掲示板にはリプレイ映像は流れないし、陸上競技場なので客席からピッチまで遠いし、観戦環境的には良いとは言えない。だけど、生のFWケビン・キーガンが本当に上手くて興奮したのは今でも鮮明に覚えているんですよね。本物を子どもの頃に体験すると、大人になっても想い出として刻まれ続けるので、またリアル観戦してみようかという気持ちになる人もいると思う」 そんな伊藤の経験はJリーグが近年力を入れている小中学生の無料招待施策にも通じる。“キッカケ”の提供。「1度生で観てもらう”キッカケづくり”が出来ればハマる可能性があるはず」(伊藤)という関係者たちの想いが込められている。今年5月に国立競技場で開催されたレアル・ソシエダ-東京ヴェルディ戦を視察した際、来場者として多くの子どもたちが楽しんでいる光景も伊藤のモチベーションを大いに高めた。 レアル・ソシエダ-ガンバ大阪戦は一部カテゴリーの席のチケットは安価で購入できる小中高価格が設定されている他、ガンバ大阪主催試合(Jリーグ)においても子ども向け施策を強化。大阪ダービーと並んで最も集客力がある『GAMBA EXPO』(記念シャツの配布やSPゲストが来場する試合)では特別企画として小中高生を対象に500円で試合観戦ができるチケットを発売している。 伊藤はパートナー推進部の部長らしい目線で、この企画意図を説明する。 「小中高生のチケットを500円で販売する一方で、(GAMBA EXPOでは)高額なホスピタリティチケットも販売しています。通常の試合のVIP席もそうですけど、高額なチケットをパートナー企業さんが購入していただけるお陰で、他の席種の価格を抑えられている面もあります。チケット代が高かったら、お母さんから『あんただけ行ってき』となる可能性もあると思いますけど、500円なら家族で行こうとなるでしょ。満席のスタジアムだからこそ生み出せるサッカーの魅力があるは間違いないことで、その(チケット価格と集客の)バランスは常に考えています」