【料理人に学ぶ】「日本で評価されやすい職人タイプ」と「世界で活躍する芸術家タイプ」の決定的な違い
「高級」だけが美食ではない。美食=人生をより豊かにする知的体験と教えてくれるのが書籍『美食の教養』だ。著者はイェール大を卒業後、南極から北朝鮮まで世界127カ国・地域を食べ歩く浜田岳文氏。美食哲学から世界各国料理の歴史、未来予測まで、食の世界が広がるエピソードを網羅した一冊。「外食の見方が180度変わった!」「食べログだけでは知り得ぬ情報が満載」と食べ手からも、料理人からも絶賛の声が広がっている。本稿では、その内容の一部を特別に掲載する。 ● 芸術家 vs. 職人 料理人は、大きく分けると芸術家タイプと職人タイプ、2通りがあると感じています。 職人タイプの料理人は、受け継がれてきた技術を自分なりに高めていくことで、ひとつのジャンルを突き詰めていく。また、自分がやっていることがアートだと意識していないことが多い。日本や中国は、この職人タイプが多い印象です。 これは、料理の特性によるのかもしれません。ある程度、型のあるひとつの料理を、いかに上手に作るか。切る技術や火入れの技術をいかに突き詰めるか。そうやって、日本料理や中華料理は進化してきた。 一方、西洋料理では芸術家タイプが多い印象です。料理人の仕事はオリジナリティのあるものを作り出すことであり、さらにはキッチンを超えた社会的存在として料理界に影響を与えたり、社会をよりよくするためにメッセージを発信して貢献することである、という考え方です。 もちろん職人イズムもゼロではなく、伝統や技術の継承に重きをおいている料理人もいます。ただ、こうしたアーティストタイプの料理人のほうが世界で注目を集めているのが現状です。 ● 日本の料理人に期待したいこと 日本の食が評価される大きな要因は、料理人の職人技であることは間違いありません。それこそ、命を削ってまで自らの技術を高めている人もたくさんいます。 ただ同時に、芸術家タイプの料理人も評価される土壌があってもいいのに、と思います。 料理の芸術性も重要ですが、料理界全体を盛り上げたり、社会貢献をしたり、という役割を担う料理人が増えることも大事だと思います。 向き不向きがあるので誰でもできることではないし、やるべきだとも思いませんが、そういう料理人が注目を集めることで、料理人という職業の地位向上にも資するのではないかと思っているからです。 料理人である以上、たとえ芸術家タイプでも、職人として修業や研鑽は不可欠です。よって、どちらかひとつ、という単純な二項対立ではありません。 また、僕は両方のタイプの料理人のお店に行きます。ただ、料理を味わううえで、料理人がどちらのタイプか、そしてどちらの表現に力を入れているかを考えながら食べると、料理に込められた思いや意図がより深く理解できるようになるかと思います。 (本稿は書籍『美食の教養 世界一の美食家が知っていること』より一部を抜粋・編集したものです) 浜田岳文 (はまだ・たけふみ) 1974年兵庫県宝塚市生まれ。米国・イェール大学卒業(政治学専攻)。大学在学中、学生寮のまずい食事から逃れるため、ニューヨークを中心に食べ歩きを開始。卒業後、本格的に美食を追求するためフランス・パリに留学。南極から北朝鮮まで、世界約127カ国・地域を踏破。一年の5ヵ月を海外、3ヵ月を東京、4ヵ月を地方で食べ歩く。2017年度「世界のベストレストラン50」全50軒を踏破。「OAD世界のトップレストラン(OAD Top Restaurants)」のレビュアーランキングでは2018年度から6年連続第1位にランクイン。国内のみならず、世界のさまざまなジャンルのトップシェフと交流を持ち、インターネットや雑誌など国内外のメディアで食や旅に関する情報を発信中。株式会社アクセス・オール・エリアの代表としては、エンターテインメントや食の領域で数社のアドバイザーを務めつつ、食関連スタートアップへの出資も行っている。
浜田岳文