ブランド刷新で「ジャガーは終わった」のか? むしろテスラ並みの注目度、「らしさ」は捨ててない
なぜ電気自動車なのに長いボンネットを持つのか
Type00が発表された際、細かなディテールにも驚いたが、特にデザイナーとして違和感を持った点が長いボンネットだった。一般的に長いボンネットはエンジンスペースが長くなるFR(フロントエンジン・リア駆動)車の持つ典型的なプロポーションだからだ。 電気自動車にエンジンはないので長いボンネットは不必要である。しかし、Type00はあえて長いノーズを採用した。 これは1961年に発表されたジャガーの伝説的な車両「Eタイプ」を強く反映しているのだろう。長いボンネット、キャビンへと滑らかに続くルーフライン、低い車高。これらはジャガーが持つ伝統と美学を象徴しており、視覚的に「ジャガーらしさ」を定義している。
EVのサイバーパンクトレンド
とはいえ、まるで20世紀の映画でみた2025年の未来の車のような水平基調でまとめられたtype00のデザインは、明らかにテスラの「サイバートラック」の影響を受けているように見える。 2019年に発表されたテスラのサイバートラックは、業界に衝撃を与えた。まるで子どもが定規で描いたようなデザインは世界中で賛否を巻き起こした。初代プレイステーションのローポリゴンで表現された車のような角の目立つデザインは消費者に強烈な印象を与えた。同時に、新しいカーデザインの方向性を示し、ファーストペンギンとして玉石混淆のEVデザインの指標となった。 ジャガーもまた、こうしたアイコニックなイメージを確立する必要があり、EVデザイントレンドの中で、モダンで優雅なポジションを確保するためType00を発表したのだろう。今後はサイバートラックやtype00のようなデジタル世界のポリゴン表現をリアルの世界に落とし込んだようなポリリアルな車が増えてくるのかもしれない。
ラグジュアリーブランドとクリエイティブリスク
一見すると、話題作りや炎上商法のように見えるジャガーのリブランディングだが、時代の変化とともにラグジュアリーブランドのマーケティング手法も変化している。 雑誌フォーブスのインタビューによると、GUCCIやサンローランを領するケリング会長のフランソワ・アンリ・ピノーは顧客の感情に訴えるには「クリエイティブリスクをとること」すなわち「全員を満足させようとせず、リスクをとり、 一部のお客様を失っても本物の創造性を表現すること」が必要だと述べた。 実際にジャガー・ランドローバー・リミテッドのチーフ・クリエイティブ・オフィサーを務めるジェリー・マクガバンもType 00の発表の際に次のように述べている。 「ジャガーは、全ての人に愛されることを目指しているわけではありません。すでに多くの人々の感情を揺さぶってきましたし、これからもそうあり続けるでしょう。すぐに好きになってくれる人もいれば、時間が経つにつれてその魅力に気づく人もいる。そして、中には最後まで共感しない人もいるでしょう。それで構わないのです。それこそが、恐れを知らないクリエイティビティの本質なのです(動画より拙訳)」 結局、マーケティングの目的は市場で目立ち、売り上げを作る点にある。一連のジャガーのリブランディング活動のあと、ジャガーの全世界Google検索件数は鰻登りとなった。ベンチマークとしていたはずのテスラのイーロンマスクCEOでさえ反応したジャガーの方向転換。注目度はテスラ並みと言ってもいい。 来年発表される市販モデルが果たしてどのような姿になるのか、期待しながら見届けたい。
山中将司