「職場の仕切りたがり屋」のモラハラに苦悩する29歳清掃員…精神科医が教える“身の守り方”
2.尊大型ASDの強いこだわり
「尊大型ASDには、たとえば仕事をするうえで不確定要素やあいまいなものを1つでも減らしたい、と強く思う傾向があります。それが、結果として周囲への押し付けにつながりやすいのです。 事例の女性社員が仮に尊大型ASDだとすると、子どもの頃から良好な人間関係を構築することができなかったために、自分が認められる機会や場が少ないことが考えられます。現在の職場で評価され、認められ、居場所を確保したと受け止めているならば、仕事の仕方に強いこだわりを持つのは本人にとっては、重要なことなのかもしれません。パート社員であっても、それは変わらないのではないでしょうか」
3.居場所をつくり、それを守ることに懸命になっている?
「尊大型ASDなどを併発していない自己愛性パーソナリティ障害の人は利害関係に敏感で、自分にとってプラスになる人、たとえば上司にはきちんとした配慮をして高い評価を受ける傾向があるのです。特に社員間の競争が激しい職場などでは、上司には上手く立振る舞うことがあります。 ですから、周囲の社員はこのタイプの自己愛性パーソナリティ障害の社員への対応が難しくなるケースがあります。周囲はおそらく好意的に受け入れることもしないのでしょうが、対抗もしずらいのです。 事例の女性社員は、ほかを併発していない自己愛性人格パーソナリティ障害の社員のように言わば、勝ち筋を心得たうえで振舞っているとは思えない面があります。たとえば、チーフを飛び越えて、部長に報告する行為は組織人としては上手いとは思えないのです。器用に立ちまわっているようにも感じないのです。 強引に押し付けるのは周囲を支配しようとしているというよりは、居場所をつくり、それを守ることに懸命になっていると見ることもできうると思います」
4.同僚らとチームで対応
「まず、上司などが本人のニーズを確かめるのが大切です。居場所をつくり、それを守ることに懸命になっているのならば、そこがニーズを聞くうえでの1つのきっかけになるのかもしれません。 周囲の社員は、言い方には注意が必要です。本人が仮に尊大型ASDだとして、それを自覚しているならば、状況を見つつ、適切なタイミングや場で、自分たちが仕事の仕方を強引に押し付けられ、困っていると丁寧に言うことを考えてもいいのかもしれません。 自覚していない場合は、さらに対応が難しくなります。本人に伝えるならば、相当に冷静に慎重に、丁寧に言うべきでしょう。あくまで事実をもとに伝えたほうがいいです。 たとえば、就業規則のような職場のルールに権限について書かれた部分があるならばそこを見せ、丁寧に説明するのも1つのアプローチではあるか、と思います。「懸命に仕事をしようとする姿勢はよいことですが、ルールのこの部分を逸脱しています」といった感じで言うこともできるのかもしれません。 その際、本人と1対1で話すのは避けるべきです。この場合、本人が攻撃を受けたと受け止め、「自分こそがハラスメントをされた」と部長など上司に言うことが考えられます。ですので、職場の同僚など複数人で本人と話し合うほうがよいでしょうね。 事例を読む範囲で言えば、チーフと2人で、本人に接するのがよいように思います。チーフをはじめ、同じ立場のパート社員など周囲ときちんと共有し、足元を固めたうえで本人に言わないと、トラブルがますます大きくなるかもしれないのです。 自己愛性人格パーソナリティ障害の要素がなく、発達障害のみならば、受け入れる可能性は若干高くなるケースがありえます。懸命に仕事をする姿勢があったとしても、それが周囲のニーズと大きくかけ離れていると、今回のような問題になりうると捉えることもできます」