「職場の仕切りたがり屋」のモラハラに苦悩する29歳清掃員…精神科医が教える“身の守り方”
5.被害を受ける社員はいかに身を守るか
「強引な押し付けにより、強いストレスを感じ、職場に通うことが苦痛に感じるならば退職することで、この女性社員から離れるのも1つの対応ではあると思います。本人に気づいてもらい、態度をあらためるようにするのは難易度が高い場合がありえます。 離れる覚悟をしたならば、本人に現在、自分は苦痛を感じ、困っていると言えるように思います。ただし、あくまで慎重に、事実ベースで丁寧に伝えることが大切です。被害を受ける複数の社員で言わばチームとして伝えると、なおよいでしょうね。 本人に伝えるのと並行し、部長に現在の状況や過去においても同じような強引な押し付けにより、不満を抱え、退職にいたったケースを伝えることも必要かもしれません。部長が被害を受けている社員たちの側に立って判断をしてくれるか否かが、ポイントになると思います。部長が、女性社員が周囲に強引に押し付ける行為がハラスメントになり、退職者を何人も生んでいることに気がつけば、味方になってくれるのではないでしょうか。 この女性社員が仮に尊大型ASDだとして、せっかく見つけた居場所を大切にしてあげたいと思うこともできます。この職場の医療者には、そのあたりに気づいていただきたいですね。 一方で、被害を受け、苦しむ社員のことも考慮しなければいけないのです。尊大型ASDであれ、自己愛性人格パーソナリティ障害であれ、加害となる行為は否定されるべきです。 本人が理由なき加害者であり、被害を受ける側の社員がこの職場になおも残るならば、前述したように周囲とチームを組んで闘うことも1つのアプローチではあると思います。闘い方には、この職場を去ることも含まれます」 <取材・文/吉田典史> 【春日雄一郎(かすがゆういちろう)】 2005年、東京大学医学部卒業。NCNP(国立精神・神経医療研究センター)病院、永寿会恩方病院精神科医長などを経て、2014年に府中こころ診療所を開設。その後、医療法人化し、医療法人社団HeartStation理事長に就任。2021年に分院「こころ診療所吉祥寺駅前」を開業。メンタルクリニックの現場で、心療内科・精神科の臨床に取り組み続けている。精神保健指定医、日本精神神経学会精神科専門医。 YouTubeで「こころ診療所チャンネル」を開設し、うつ病、適応障害、パニック障害、発達障害、自己愛性パーソナリティ障害などの解説やその対策を紹介している。 【吉田典史】 ジャーナリスト。1967年、岐阜県大垣市生まれ。2006年より、フリー。主に企業などの人事や労務、労働問題を中心に取材、執筆。著書に『悶える職場』(光文社)、『封印された震災死』(世界文化社)、『震災死』『あの日、負け組社員になった…』(ダイヤモンド社)など多数
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