ビール飲むのもストレスたまる、米国流のチップが英国パブ文化を侵食
(ブルームバーグ): 英国のパブ常連客にとって最大の悩みは、至って単純なものだった。ビールにするかウイスキーにするか、生にするか瓶にするか、1パイントにするかその半分にしておくか、などだ。
それが今では新たな問題にますます突き当たるようになった。その問題とは、チップを払うかどうかだ。
英国最大のパブチェーンの一部は、飲食料金に10%かそれ以上のチップ支払いを客に求め始めている。パブは英国の古き良き伝統が感じられる場所であることが魅力であるだけに、チップの請求に客は気まずい思いを禁じ得ない。
「パブでは列に並び、そして待たされる。してもらうことと言えば、飲み物を渡してもらうだけだ。それでチップを払うというのは、私たちにとって普通ではない」と、バッキンガム宮殿近くのパブ「フェニックス」で友人らとラムコークを飲んでいたジュリエット・レインさんは話した。ロンドンでプロジェクトマネジャーを務めているというレインさんは、チップの要求には「共感しない」と語った。
英国のパブでは最近まで、チップは控えめなものだった。ビールを受け取る際にカウンターに置かれた容器に釣り銭を幾つか投げ入れる程度だ。それがカードの利用でチップ支払いが不可能になり、バーテンダーから冷たい態度を示されることもしばしばになった。キャッシュレス決済が広がり、米国のバーやレストランの慣行が英国のパブ文化に浸透するに従い、状況はさらに変わった。収益悪化も理由にパブチェーンは追加的な支払いを引き出そうとチップ要求へとかじを切る一方、それに慣れていない顧客は困惑している。
新型コロナウイルス禍もチップ要求の流れを後押しした。ロックダウンが解除されてパブやレストランが再開した際、多くの店で紙のメニューに代わりQRコードが導入されたが、これに顧客にチップを支払わせる仕組みが盛り込まれた。
カード決済会社サムアップの英国事業責任者、ルーク・ビーボン氏は「10%や15%というように、顧客はチップの料率を選ぶよう促される。それをクリックすればいいだけで、とても簡単だ」と述べた。「再び外出できることで心は弾み、人々の財布のひもは緩くなっている」と続けた。