高専の最新半導体教育 進む教材開発と設備投資
半導体人材の教育は喫緊の課題として全国各地、産学官連携で進んでおり、高等専門学校(高専)でも、さまざまな取り組みが行われている。約半数が就職する高専生に対し、実際に製造を担う技術者である「ボリュームゾーン人材」の育成を目指す。教材づくりや半導体に興味を持ってもらうための体験講座など、各地の取り組みを紹介する。 取り組みの旗振り役、九州では教材づくり 受託製造最大手のTSMC(台湾積体電路製造)の進出を契機に多くの半導体関連企業が投資を行っている九州での取り組みが特に活発だ。熊本高専と長崎県の佐世保高専は高専全体の半導体教育プロジェクトの拠点校に指定されており、2022年から半導体に特化した講義を開講している。熊本高専の高松洋校長は「どの専門分野の学生でも、半導体がどのように使われ、作られるかを知っておくための講義だ」と話す。 拠点校の取り組みを全国に広げる必要があるため、教材開発も重要になる。佐世保高専での講義を撮影し、スライドとセットにしたオンデマンド教材として他校でも利用可能にしている。現時点で基礎的な内容の「半導体工学概論」9編分、より専門的な「半導体デバイス工学」5編分を作成した。他分野と半導体の関連性を記したワンフレーズ集も作成している。 熊本高専の専門的な講義はほかの高専や大学生でも受講できる。 設備も続々導入 実習や研究のため設備の導入も重要だ。佐世保高専は12.5ミリメートルの超小型ウエハーでチップを製造する装置、ミニマルファブを導入している。導入コストが小さく、設備がそろえば一気通貫のチップ製造ができる。同校の電気電子工学科の猪原武士准教授は「ゆくゆくは高専ロボコンに自分たちで作ったチップを載せるところまでいきたい」と語る。 北海道の旭川高専も設備を導入している最中だ。国内での最先端半導体製造を目指すラピダスが北海道千歳市に工場を建設していることを受け、北海道では釧路高専と旭川高専が半導体分野のブロック拠点校に指定されたためだ。 小中学生向けの体験講座も 旭川高専では装置を活用して小中学生向けの体験講座を開いている。設計変更が簡単で実習に適したマスクレス露光装置を用いて、自分が描いたイラストをウエハーに転写するという内容。同校システム制御情報工学科の中村基訓教授は「一度実際に装置を動かす体験をしているのとしていないのとでは興味も変わってくる」と意義を語る。 学生主体で体験プログラムを実施する例もある。京都府の舞鶴高専では、電子制御工学科の清原修二准教授の研究室が開発した独自のナノインプリントシステムを利用した体験講座を、研究室所属の学生が講師となって行っている。月に1回高専生向け、年に1回小中学生向けのものを実施する。同校には半導体製造の前工程に関わる設備がそろっており、それを生かし微細な回路を描く体験ができる。 各高専の取り組みは国立高専機構が進める次世代基盤技術教育のカリキュラム化事業「COMPASS 5.0」の半導体分野に対応したプロジェクトとして実施している。拠点校とブロック拠点校に加え、全国の実践校が23校あり、舞鶴高専もこのうちの1校だ。半導体人材の早期育成に向け、高専での取り組みと産官学が一体となった支援が今後も重要となる。
電波新聞社