「フィリピンに帰ればいい」生活保護を求める日本育ちの女性が受けた “違法な”対応…背景にある「制度の誤解」とは【行政書士解説】
人生のほとんどを日本で暮らし、働いてきたフィリピン人女性
パウさんは、長年日本で生活し、日本語も上手で、最初に電話を受けたとき、日本人かと思ったほどです。実際に、事務所でお会いすると、これまでの日本での苦労をとても朗らかに語ってくれました。 亡きお母さまもフィリピン人で、生前長らく日本で生活し、仕事をして納税もし、日本社会に貢献してきたのです。 フィリピン国籍のパウさんは、日本人男性と日本で結婚しましたが、結婚生活1年足らずで離婚。その後、離婚した元配偶者との間に2人の子どもが生まれましたが、男性は認知せず、自分の子ではないと言い張る始末。 在留資格も有り、働いていたパウさんでしたが、そのストレスもあって病気になり、仕事を続けられなくなって収入が途絶えてしまったというのです。 国籍はフィリピンでも、人生のほとんどを日本で過ごし、これまでずっと働いて納税もしてきたパウさんです。 外国人保護の実施責任は、入管法に「在留カード」または入管特例法に基づく「特別永住者証明書」に記載された住居地の管轄福祉事務所にあります(日本人は住民票がどこにあろうと、実際に寝泊まりしている場所の管轄福祉事務所です)。 例外的に、外国人であるDV 被害者が住居地の変更届出を行うことができない状態にある場合は、日本人と同様に実際の居住地で生活保護を受給できるケースもあります。
「フィリピンに帰ればいい」は違法
生活保護の相談に行ったパウさんに、窓口の人が放った言葉は「生活に困っているなら、フィリピンに帰ればいい」。 人生のほとんどを日本で過ごし、日本人と同じように働き、税金や社会保険料も納めてきたパウさんに、何と心ない言葉でしょうか。 前述したように、日本政府は、定住外国人に対し、通達により、生活保護法に準じた保護を与える運用を行ってきています。 通達は行政内部の法解釈・運用を統一するための基準なので、これに則った運用が行われなかった場合には、裁量の逸脱・濫用として違法の問題が生じ得ます。 在留資格を持つ外国人の方には、社会保障制度の運用上、保護を受ける権利があります。それなのに「生活に困っているなら自国に帰れ」とは、明らかに、行政の裁量逸脱行為と言わざるを得ません。 このような違法な外国人差別は、残念ながら生活保護行政以外でも見られます。
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