「フィリピンに帰ればいい」生活保護を求める日本育ちの女性が受けた “違法な”対応…背景にある「制度の誤解」とは【行政書士解説】
生活保護申請中に自己負担なく病院にもかかれた
土曜日に事務所に相談に来られたパウさんの生活保護申請は、2日後の月曜日にさっそく、特定行政書士(※)が申請書を作成して、福祉事務所に代理提出、受理されました。 ※官公庁に提出した書類に係る許認可等に関する不服申立ての手続について代理権を持つ行政書士 病気なのに、国民健康保険料が払えずに通院ができなかったパウさんは、福祉事務所で生活保護申請中であることを証明する書面を発行してもらい、無事に、自己負担なく病院にもかかることができ、ほっとしたとのことでした。 申請後、パウさん本人が、直接福祉事務所の担当者に相談したときは、「調査期間中は医療費は無料にならない」と、いったんは対応を拒まれてしまいました。 そこで、当事務所の行政書士が再度担当者に電話連絡をして事情を説明し、対応してもらったものです。
弱者の立場に配慮し血の通った行政運営を
本来、生活保護法や、厚生労働省の「生活保護実施要領等」や通達等にしたがって、弱者の立場に配慮し血の通った行政運営が徹底されていれば、行政書士がパウさんと福祉事務所の間に入る必要もなかったはずです。 これは「外国人だから」で済まされる問題ではありません。日本人に対しても、あの手この手で生活保護の申請を諦めさせようとする「水際作戦」などの対応がとられることがあります。 ともあれ、逆境でも明るいパウさん。 小学生のお嬢さんが持っていたビーズをあしらったハンドバッグを「とてもかわいいね」と話す私に、「私はセンスがいいから安いものを買ってもほめられるの!」と笑顔で返してくれたパウさん。 無事に病院に行き、必要な薬をもらうことができて、ほっと、胸をなでおろしたのでした。
外国人労働者の受け入れが拡大…急がれる外国籍の方の日本での生活支援
今後、パウさんのような定住外国人だけでなく、日本で働く外国人労働者の生活支援・社会保障をどうするかということが、重要な課題になっていくと想定されます。 外国人労働者の受け入れを拡大する改正出入国管理法が、2019年4月1日に施行されました。新しい在留資格として、一定の専門的・技術的な業務を担当できる「特定技能」(1号、2号)が設けられたのです。「技能実習」の資格から「特定技能」への資格に移行することも認められるようになりました。 これは、深刻化する人手不足への対応として行われたものです。ひとえに「日本社会の都合」によるものといわざるを得ません。 在留資格を持って働く外国人労働者は、日本人と同様に税金を支払い、社会保険の加入義務を負います。そのような人々に対する社会保障も含めた生活支援の制度をどのように設計すべきかという問題は、今後、避けて通れないものになっていくと考えられます。 なお、国会では、外国人増加による治安悪化を懸念する意見も出ましたが、『令和6(2024)年版犯罪白書』によれば、実際には、来日外国人犯罪の検挙件数は2005(平成17)年を、検挙人員についても2004(平成16)年をピークに減少傾向が続いています。 また、犯罪に至ったケースの多くは、日本での貧困や差別、教育の問題が背景にあると言われています。 治安維持のためにも、外国籍の方とそのお子さんの日本での生活支援について、日本の伝統的な美徳である「思いやり」を持って考えてもらいたいと思っています。
三木 ひとみ
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