「役者は絶対にAIには任せられない」頑固であり柔軟、水上恒司の人間力と矜持
Bezzyによる映画『本心』リレーインタビュー。アンカーを飾るのは、キーパーソン・岸谷役を演じる水上恒司。 依頼人に身体を貸し出し、依頼人の指示通りに行動する「リアル・アバター」という職業が普及した世界で、主人公・朔也に「リアル・アバター」の仕事を紹介する岸谷。時代の最先端を走っていると自負する岸谷だが、いつしか時代に踊らされ、時代の波に飲み込まれる。その卑屈な自尊心は、まるで空虚な現代人の写し鏡のようだった。 水上恒司は、岸谷という人間の生き方にはたして何を思ったのだろうか。 【撮り下ろし写真多数】これまでも朝ドラや大河に出演、今年もドラマ『ブルーモーメント』や映画『八犬伝』など話題作で活躍する水上恒司
やっぱり人は自分の利益を考える生き物
──先に石井裕也監督にお話を聞いたんですけど、クランクアップのコメントで水上さんが「この役のオファーをずっと断ろうと思ってました」とおっしゃっていたとお話しになっていて。まずその真意から伺えればと思うのですが。 それはちょっと石井さんが曲解されている可能性がありますね(笑)。 ──そうなんですね(笑)。では改めて水上さんの口からお伺いできますか。 断ろうというか、自分がこの役をお受けしていいのか不安だったのは確かです。というのも、脚本のレベルが高く、他の出演者のみなさんもすごい先輩方ばかり。自分の力量を鑑みたときに、はたして職務をまっとうできるだろうかという不安がありまして。クランアップのときは、確かそういうお話しをさせていただいた記憶があります。 ──岸谷は作品のキーパーソンとも言える重要な役です。水上さんはこの作品における岸谷はどういう役割だと捉えて臨みましたか。 岸谷は、池松(壮亮)さん演じる朔也にゾンビのようにまとわりつくキャラクター。一方で、現代の大半の若者たちの象徴となる存在です。非常に粘着性のある、けれど表出は軽やかで、何にも執着していないように見えることを、まず目指しました。 ──朔也を混沌の世界へと引きずり込む水先案内人のようでもあり、その存在は時に不気味に映ることもありました。そういう見え方は意識しましたか。 そこは特に考えていなかったですね。冒頭から朔也のことを見下しているような台詞があり、そこをちゃんと理解してやれば、おのずとそう見えると思ったので、僕から意識したところは特にないです。 ──岸谷が朔也に対して抱いていた感情は何だったと思いますか。 依存じゃないですか。でもきっと岸谷本人は依存だと思っていなかったでしょうね。自分がこの人のことをどうにかしてあげなくちゃという、よくあるやつです。私がいないとこの人はダメになってしまうという、ダメな男をつくり出す女性の気持ちに近いところがあるかもしれません。岸谷は、自分が朔也のためにいろんなことをしてあげていると悦に浸っていますが、実際のところは岸谷のほうが朔也に依存したいだけなんですよね。 ──庇護の対象を傍らに置くことで安心するという。 だと思います。どれだけ上から目線なんだという話ですよね。典型的なダメな人間のあり方だなと思いました。 ──そんな朔也のステータスがどんどん上がっていくことにより、岸谷は動転していきます。 そんなはずない、朔也さんより俺の方が優れているんだという優越感が岸谷の中にあるから、どんどんねじ曲がっていく。結局、岸谷は俺よりお前のほうがえらいんだというふうに人をランク付けすることでしか他者と関係性を築けない人間なんですよね。そして、そういう人は今の若者にも多いと思います。もちろんみんながみんなそういうわけではありませんけど。 ── 一方でどうでしょうか。岸谷の中に、朔也への純粋な友情というものもありはしたんでしょうか。 僕はこの世の中に純粋な愛や友情というものがあると考えていないんですね。もしあるとしたら、子どもくらいじゃないでしょうか。やっぱり人は自分の利益を考える生き物だし、たとえ相手が不利益を被ることになるとしても、自分のために利用しようという打算が芽生えてくる。それを必死に見せないように生きていくんですけど、その作業をする時点ですでに純粋ではないですよね。だから、僕は朔也と岸谷の間にそういうものはないと認識していました。 ──なぜこのことをお聞きしたかというと、朔也と岸谷のシーンで岸谷から朔也のことをずっと見下してはいたけれど、朔也が遠くに行ってしまったことへの寂しさが漏れ出ている気がして。 寂しさはあったと思いますよ。やっぱり岸谷は朔也と一緒にいたかったし、朔也と中国に行きたかった。けれど、朔也は岸谷を切り捨て、その手を振り解いていく。そこには当然朔也の寂しさもあったと思いますし、ずっと友達だったからこそ岸谷の変貌に対するショックな気持ちもあったと思います。その関係性が純粋であれ複雑であれ、一緒に過ごしてきたなりの寂しさはおのずと漏れ出てくるものなんじゃないでしょうか。