「役者は絶対にAIには任せられない」頑固であり柔軟、水上恒司の人間力と矜持
「人の話を聞いていますか?」への答え
──そのシーンについて池松さんからもお話を伺っています。池松さんは「あのときの高揚感というものは水上くんと二人だから到達できたもの」と振り返っていらっしゃいましたが、水上さんはいかがですか。 池松さんがこの作品に対してどういう想いを持って臨んでいらっしゃって、こうして公開に至るまでにどのようなプロセスを踏んできたかということもお聞きしていたので、あのシーンに関してもすでに池松さんの中で準備ができているようにお見受けしました。その中に自分が入っていくことにドキドキしましたし、緊張もした。だから、終わった後、池松さんにも石井さんにも面白かったと言っていただけたことがすごくうれしかったです。 ──このシーンは一発オッケーだったそうですが、カットがかかった瞬間、水上さんはどんな状態でしたか。 疲れたって感じでしたね。ただぶつかっていけばいいというお芝居でもなかったので。ある種のアクションでもあったので、怪我をしないように、ここは絶対に通ってほしいという物理的なポイントや感情のポイントも確認する必要があって。いろんなところに神経を張りめぐらせていました。 ──池松さんからは、水上さんは自分軸がある一方、時々人の話を聞いていないかもしれないというようなお話がありました。そこで池松さんからの質問なのですが、人の話を聞いていますかと(笑)。 聞いていないかもしれないです(笑)。昔から「人の話をよく聞きましょう」と通信簿に書かれていたので。聞き流すということは時に自分への防御にもなります。だから、自分にとって必要ないなと思ったことはあんまり聞いていないかもしれない。もちろん必要ないと思ったものの中にも何かしらのヒントはあるので、なるべく聞こうとはしますけど、今そういう場合じゃないですというときは、そうですね、聞いていないです(笑)。 ──認めましたね(笑)。 ただ、池松さんのお話であれば、たとえどんな愚痴でも細かいことでもお聞きしたいと思っているので、よろしくお願いします! ──よくご自身のことを「頑固」とおっしゃっているかと思います。その気質はもう変わらなくていいという感じですか。 変えられないですね。一種の病気ですよ。小さい頃からよく頑固だと言われていましたから。人の言うことを聞かない。自分のやりたいことをやる。そうやってずっとここまで生きてきました。 ──頑固で良かったことはありますか。 そういう自分を面白いと言ってくれる人に恵まれたこと。あとは、意志の固さを面白いと評価していただける職に就けたことですね。 ──じゃあ、頑固で損したことは? 頑固って、そもそもあまりいい言い方じゃないですからね。今困らせているなと感じる瞬間はあります。頑固というのは時に人を傷つけるものですから、自分はこう思うんだけどと考えを述べるときも言い方を考えないといけない。でもそれは頑固な人間であろうと柔軟な人間であろうと同じですよね。物事にはいい側面と悪い側面がある。それを自覚した上で、他者にどうアプローチするかが人間力なんだと思います。 ──もし自分が絶対に譲りたくない局面に出くわしたとしたら、やはり自分を曲げることはしないですか。 いや、そこはちゃんと相手であったり、対峙している物事と照らし合わせます。まずはその人がどういう意図でそう言っているのか理解しないと。大事なのは、自分の意見を押し通すことではないんです。各々が自分の意見を提示して、それをどう形にするかみんなで話し合うのがクリエイティブ。押し通すことではなく、提示することが重要なんです。だから、ちゃんと自分がなぜ思うかを伝えることが、頑固な大人のやるべきアプローチなんだと思います。 ──きっと水上さんには、映画の中で描かれるような「リアル・アバター」になるのは難しいんだろうなという気がします。 そうですね。無理だと思います。 ──映画のようなテクノロジーが進歩した時代が、まもなくやってくると言われていますが水上恒司さんはどうなっていると思いますか。 すぐ淘汰されるんじゃないですか。でも、ならないと思いますよ。役者は絶対にAIには任せられないですからね。だから、僕には関係ない気がします。もちろん僕だってスマホを持っていますし、その中にはAIを使った機能があって、利用していることもあるでしょうけど、それがなくても生きていけるなという自信がある。だからAIに対してすごいとは思うけれど、自分の生活範囲においてはあまり関心がないんです。