カップ麺が850円!? 円安の影響、街の様子や熱気は? パリ五輪のリアルを現地ルポ!!
では、五輪はやる価値も、見に行く価値もないのだろうか? ひとついえるのは、感情が揺れ動くことで大きく人生は変わる、ということだろう。多くの日本人が、大谷翔平がホームランを打つだけで幸せになる。彼の豪快なホームランで世の中が明るくなって、「いいことが起こるかもしれない」という希望につながる。それは錯覚だとしても心の動きは事実で、それで人生が好転することもある。 スポーツは、明日を生きる活力を与えるのだ。〝史上最強〟の呼び声が高い男子バレーボール日本代表の初戦、ドイツ戦は敗れたとはいえ、活況を呈していた。パリ南アリーナは徐々に席が埋まって超満員。イタリアで活躍する「石川祐希」の選手紹介アナウンスにどよめきが起こる。日本人としては誇らしい。 ハーフタイム、モニターに「Today is my birthday」と書いたボードを持ったアジア系女性の姿が映し出され、それを祝う拍手が起こり、隣の年配の女性は満面の笑みをつくった。 ガーラの世界的ヒット曲『Freed from Desire』で「ナ、ナ、ナ♪」の大合唱に。ライブ会場のような一体感は、フルセットにまでもつれた熱戦がつくったものだろう。試合の決着がつく直前には、人々が総立ちになっていた。 卓球では、混合ダブルス1回戦で金メダル候補だった張本智和・早田ひなのペアが、あっけなく敗退という波乱が起きた。「五輪には魔物が棲む」といわれるが、ふたりはシングルスに向けて挽回を誓った。 翌日には、同じく金メダルが期待されていた女子柔道の阿部 詩も2回戦で敗退。彼女はこらえ切れず号泣した。しかし、皮肉にも必死な姿が大勢の人々の気持ちを熱くした。 勝ち負けを超えた世界が、五輪にはある。 五輪は社会の問題を解決することはない。むしろ、生み出すこともある。ただ、アスリートたちが必死に戦い、人々が歓声を浴びせ、会場がひとつに溶け合うとき、その一瞬が誰かの救済になることもあるはずだ。 8月11日まで、パリの宴は続く。 取材・文・写真/小宮良之