【白央篤司が聞く「50歳からの食べ方のシフトチェンジ」vol.3】これからは「そこそこのおいしさ」で日常は充分、作るのがめんどうでも大丈夫。先人たちの経験と知恵が50歳以降の食を拓く
おいしい!うれしい!作り続けたい
今年の1月、続編的な『あっこれ食べよう! 70歳ひとり暮らしの気楽なごはん』(主婦の友社 2024年)が刊行され、現在までに3刷となっている。本書ではより詳しく大庭的食生活のポイントと、年齢と共に変えたこと、変えていないことが語られる。 「朝ごはんは絶対に抜きません」といったストイックな部分もある一方、「晩ごはんにおかずだけ食べることも」あれば、1日350g食べるのを推奨される野菜は「私も足りていないと思います」なんて率直に語られるところもあり、思わず親しみを覚えてしまう。朝ごはんを抜かないのは、朝きちん食べると昼にちゃんとお腹が空くから、という理由にも納得。1回リズムを崩してしまうと後までずるずる悪影響は及びやすい……。 紹介されるレシピは「たんぱく質と野菜を同時にとりやすく」「手軽に主食と合わせて食べられるように」しつつ「洗いものもなるたけ少なく1食が完成」しやすいように、が熟慮されているのを感じる。ありがたい。 ひとり暮らしの大庭さんがたどり着いた作りやすさ、食における「気楽さ」を体現するレシピの数々。豚しゃぶをのせた冷やし蕎麦など、別に習わなくたって多くの人が作れるだろう。私もよくやるが、書き添えられたちょっとしたポイントに従ってみたら、いつものおいしさの精度が上がった。こういうときは、うれしいものである。こんなうれしさが、作り続けていく上での心の糧になるのだろう。 70代になったとき、こんな食卓と共にありたい。そう思える本だった。
老いて「食べづらさ」に直面したら…
いつまでも元気に食べていたいけれど、人間そうもいかない。体のあちこちが衰えてきて、噛みにくい、飲み込みにくい、といった困難も生じてくる。 「料理家と食」というテーマからは外れてしまうが、70代以降の食のガイドブックとして推しておきたいのが『70歳からのらくらく家ごはん』(女子栄養大学出版部 2020年刊)だ。隠れたロングセラーで、最近増刷にもなっている。 著者は管理栄養士の中村育子さん。在宅治療を受けている患者さんの訪問栄養指導を20年以上されてきたキャリアを持つ。本書は「冷凍食品、総菜、缶詰、レトルト介護食品などにほんの少しだけ手を加えた料理」を紹介するのがメインテーマ。 最初に紹介されるのは、冷凍餃子と冷凍ほうれん草を組み合わせて作るスープである。中村さんはここに卵や野菜を加え、栄養バランスをよりととのえたレシピにして教えてくれる。 冒頭、老いの最中にある人はどういう食べづらさを抱えているかが説明される。これは、実際に自分がそうなってみないと分からないこと。うちの親も言わないだけで、同様の不都合を抱えているかもしれないとハッとした。自分がもし高齢になって噛めない、飲み込みにくいとなったとき、近しい人に正直に言えるだろうか。友人に相談できるだろうか、考えてしまう。 当事者の方なら「こんな食事のととのえ方もあるのか」と参考になるだろうし、高齢の方に食事の用意をされている方にとっては有益な情報が多く詰まっていると思う。中村さんの「自分に完璧を求め過ぎないで、変化をおおらかにとらえましょう」という言葉が心に響く。 自分で作って、食べていく。年齢に応じた微調整やシフトチェンジが今後何度も必要になってくるのだろうが、先人たちの経験と知恵をうまく参考にしつつ、フレキシブルに対応していきたい。