なぜ日本のマンガは、次々に「メガヒット」するのか
「裾野広ければ頂(いただき)高し」 実は、この言葉は、名作『あしたのジョー』を世に送り、現在は日本漫画家協会会長のちばてつやさんが、ことあるごとに使っていた言葉なのです。首相や政府へのロビー活動の際にも使っていたのだとか。漫画家がたくさんいて、あらゆる種類の作品が生み出される環境が発展するほど、面白い作品ができて業界が発展するという意味です。これは、当たり前のことのように聞こえますが、日本のマンガが発展してきた真理なのだと私は考えます。 【画像】ゴゴゴゴ、ドキューン、ズキュン!! マンガの擬音・効果音を楽しむ 2024年現在、日本に何人のプロ漫画家がいて、年間何作品が生まれているか、正確な数字は算出できないのですが、参考となる情報として、2010年頃、書店で漫画単行本を発刊する漫画家は約6000人、単行本のアイテム数は1万2000冊強あったようです。 プロとして生計を立てている人だけでなく、漫画家志望者の人数も加えると、その裾野はさらに広いことが分かります。例えば、大学で漫画を教えているところが28校、専門学校が68校を超えており、合わせて推計で5000人超の漫画家志望の学生がいます。 また、日本最大規模の同人誌即売会であるコミックマーケットが、コロナ禍前で最大規模を誇っていた頃には、1回の開催での参加サークル数が3.5万、申し込みベースだと5.1万という巨大な開催だったこともありました。 しかも、漫画家や作品の数は、この数字が発表された2010年以降、さらに拡大の一途をたどっています。要因としては、主に3つが考えられます。
拡大の要因
1つ目は、スマホの普及により、電子書籍プラットフォームやマンガアプリから生まれた漫画の数が大きく増えていること。 2つ目は、出版社などを介さない、個人による漫画販売が増えたこと。これは、コミックマーケットのような同人誌即売会で同人誌を発売するクリエイターや、Kindleインディーズマンガをはじめとしたデジタルプラットフォーム上で発信するクリエイターも当てはまります。 3つ目は、いわゆるWebtoon(ウェブトゥーン)と呼ばれる縦読みのマンガを制作する、ウェブトゥーンスタジオの設立ブームが起こったこと。2年ほどの間に、70~80ほどのウェブトゥーン制作スタジオができたことが公表されました。また、それ以上の数の編集プロダクションや個人が、無数に新しいジャンルのウェブトゥーンに進出しました。 紙で印刷して店頭に並ぶアイテム数だけで、年間で約1万5000ほどです。デジタル作品はこうした一元管理がなされておらず、年間の作品数で見ても、1万5000~2万ほど生み出されているのではないかという肌感です。 これは、日本で映画が年間で676作品、近年の日本のテレビアニメ制作本数が300前後で推移していることと比べると、かなり多いことが分かります。さらに、海外と比較してみても、年間で生まれる作品数は、米国のアメコミの新刊点数は不明ですが市場規模で半分ほど、韓国ではウェブトゥーンが2617作品ですので、日本のマンガの数は突出しているようです。 漫画業界では、ヒット作品が生まれる確率は「千三つ」と言い、1000作に3作ほどの割合でヒット作品が生まれると言われています。つまり、ヒット作品をつくる唯一無二の方法はたくさんの作品をつくるということになります。 生み出される作品が多いほど、ごくわずかな確率で生まれるとんでもないヒット作品が出て来る可能性が上がるのです。ごくわずかな作品を制作し、狙いすましてヒット作品をつくろうにも、なかなかそうしたことは起きません。