全盲の大学1年生、賃貸探しは困難だらけ…。一人暮らし物件20件以上で拒否、視覚障がい者の住まい探しサポート利用でようやく入居へ
無償で住まい探しをサポートするmitsuki。不便や理不尽を感じることも……
mitsukiは主業である同行援護サービスを提供して対価を得ており、そのサービスの一環として、高橋さんたちは視覚障がい者の住まい探しを無償で手伝っています。Kさんも住まい探しで感じる不便さとして挙げていますが、周辺環境の雰囲気など、視覚障がいのある人が入手しにくい情報や、不動産会社とのやり取りに慣れていない部分もあるからです。 高橋さんは、あらかじめヒアリングフォームで条件や優先順位を聞き、ネットで物件情報を検索したり、代理で不動産会社に問い合わせをしているそう。 「視覚障がいのある方が新たに生活する場所を検討する際、周辺環境を気にされる方は多いです。同じ『徒歩3分』の希望でも、歩道と車道が分かれていることを優先する人もいれば、横断歩道がない方が良いという人もいますね」(高橋さん)
しかし、これまで何人もの住まい探しに携わってきた中では「契約当日になって断られるケースもある」のだとか。 「入居を断るにしても、理由をいってもらえないことには納得できません。『障がい者だから』でも良いんです。断るのならせめて理由をいうのが人としての礼儀ではないでしょうか」(高橋さん) また、Kさんが不動産会社に問い合わせると、行政サービスや、障がい者の居住支援を行っている団体への相談を薦める不動産会社も多いそうですが、障がい者=居住支援の利用という構図には疑問を投げかけます。 「私は、行政などで紹介してもらえる部屋は経験上、選択肢が少なく、自分の希望が反映されるものではないと考えているので、利用しようという気にはなれませんでした。私が行政に配慮してもらう立場であることは自覚しているつもりです。しかし、目の見える人が選べる選択肢を、障がいがあるからと言って狭められることには、違和感を感じてしまいます」(Kさん)
不動産会社にも「視覚障がい者のリアルを伝えたい」
高橋さんが障がいのある人の住まい探しで感じたのは、不動産会社の対応がまちまちだということ。 「あくまで個人的な感覚ですが、過去に視覚障がいのある人や車椅子を利用する人の住まい探しに携わったことのある担当者は親身になって対応してくれると感じます。経験のない担当者は『わからないから怖い』『怖いから断る』ということなのでしょう」(高橋さん) また、視覚障がいのある人へのサポートや理解度に地域差があるとも言います。 「地方では、同行援護を行うガイドヘルパーの数が全然足りていません。このような地域では障がい者への理解が進まず、目立ってしまうため、障がいがあること自体を隠して生活している人も見られます」(高橋さん) このような状況を変えたいと考えた高橋さんは視覚障がいのある人への理解を広めるために、WEB上で記事を発信したり、不動産業界団体からの依頼でセミナーに登壇したり、不動産会社向けの動画で解説などもしているそうです。 「障がいのある人に接したことのない人が、どのように応対すればよいのかわからないのは、ある意味仕方のないことです。私もより多くの人に、視覚障がいのある人が何を必要としていて、どんな配慮が必要なのかを伝えていかなくてはならないと考えています。『法律で義務化されたから』『社会の目が怖いから』ではなく、お互い気持ちよく暮らすために、歩み寄る場所を見つけられれば良いですね」(高橋さん) 障がいのある人を含む、住まいの確保や入居後の生活に配慮が必要な人たちのためのセーフティネット住宅(※1)や、住まいの支援を行う居住支援法人(※2)は増えてきましたが、その数を増やすだけでは問題は解決しません。 「障がい者」とひとまとめにするのではなく、一人の住まい探しをしている人に対して、どのような部屋に住みたいのか、何を必要としているのか、それぞれのニーズに沿ったサービスを提供することが必要で、それは本来、障がいの有無に関係ないはずです。居住支援という言葉が必要なくなるくらい、障がいのある人もない人も共生するのが当たり前の社会になることを願います。そのために私たちは、障がいのある人をもっと知ろうとしなくてはならないと思いました。 ※1:セーフティネット住宅:住宅セーフティネット制度に基づいて登録されている、住宅確保要配慮者と言われる高齢者、障がい者、外国人などの入居を拒まない賃貸住宅のこと ※2:居住支援法人:住宅セーフティネット法に基づき、住宅の確保に配慮が必要な人が賃貸住宅にスムーズに入居できるよう、居住支援を行う法人として各都道府県をはじめとする自治体が指定する団体等 ●取材協力 株式会社mitsuki
和田 文(りんかく)
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