「海を流れる川」アマゾンの河口は驚くべき水中世界の始まり、ありえない発見も
アマゾン川は世界最大級の河口から海へと注ぐが、そこが終着点ではない
バイリケは淡水と海水が出合うアマゾン川の河口のただ中にある群島で、2024年2月の今回の訪問は、私(海洋生態学者のアンジェロ・ベルナルディーノ)にとって2回目の現地調査だった。 ギャラリー:アマゾンの闘う先住民 カヤポ 枯れた植物の破片や動物の死骸、岩屑(がんせつ)といったものをふんだんに含む川からの水が、バイリケの島々を縫うようにして大量に海に注ぐため、海水と混ざり合わず、一般的な河口に見られるような汽水域をつくらない。アマゾン川の淡水は、ほとんどそのままの状態で大西洋へと流れていく。いわば、海の中を流れる川となるのだ。 手つかずの自然のなかで、ある発見をしたことがある。それは、隠れていたというより、上手に“変装”していたという感じだった。 2022年、初めての調査のためにバイリケ諸島を訪れたときのことだ。島の海岸線に近づいて行ったとき、そこに密生していると思っていた植物が見当たらなかった。そう、マングローブがなかったのだ。 ここの植生について、それまで誰も調査したことがなかった。島々の間をボートで進み、海岸へと近づいて行ったときのことを、私は今でも覚えている。 そこにはマングローブがまったくなかった。いったいどこへ行ってしまったのだろう?
その姿は、思い描いていたものとはかけ離れていた
目に入るのは、背の高いアサイーやタケ、ココヤシばかり。ボートを下り、陸に上がって調査をすることになったが、私たちはだんだん混乱し始めていた。やがて、ジャングルのように背の高い木々が生い茂る場所にたどり着く。そして辺りを見回すと、ついに見つけたのだ。マングローブだ。 だがその姿は、思い描いていたものとはかけ離れていた。内陸にやや入った場所で、淡水で生育する木々と同じ地面から、からみ合うようにして生えていたのだ。海洋生態学者の目から見て、ありえないことだった。 アマゾニアは地球上で類を見ない特別な場所だが、そんなアマゾニアにあっても、この河口はユニーク過ぎる。私たちが見つけたマングローブの生えた森は、生態学的に見て特殊な場所といえる。背丈が40メートルもある、それまでに見たこともないほど巨大なマングローブが、生育に十分な塩分を含んでいるとは思えない地面からそびえているのだから。 バイリケ諸島には、このような独特の木立が広く分布していることがわかった。つまり新たに確認された何百へクタールものマングローブ林が地図に書き加えられ、保護の対象となるということだ。 巨大な木々もあり、相当樹齢が長いと推定されることから、根元の土に奥深くまで炭素が貯留されている可能性がある。最初の現地調査の後に発表した論文には、「気候変動を緩和する重要なカギを握る、前例のない発見」と記した。 ※ナショナル ジオグラフィック日本版10月号「海を流れる川 アマゾンの河口の先へ」より抜粋。
話=アンジェロ・ベルナルディーノ(海洋生態学者)/聞き手=シンシア・ゴーニー(ジャーナリスト)