フェラーリ308GTBのデザインに秘められた挑戦と失敗
「カッコ良い!」 クルマ好きならずとも見た途端そう思うクルマはある。フェラーリ308GTBをカッコ悪いと言う人は聞いたことがない。 【画像】ポルシェ911の何がスゴイのか? デザインは言わずと知れたピニンファリーナ。その優美なデザインは今でも多くの人を魅了する。優美さは多くのフェラーリが持っている特徴だが、歴代フェラーリの中でもこの308GTBと365BBのデザインだけが持っている特別なものがある。それはたおやかなシェイプの随所に張り巡らされた鋭利で張りのあるエッジだ。 カミソリで削いだかの様な緊迫したエッジは、空気の壁を切り裂いて走る速度感と、機械としての緻密さを強く印象付ける。このシャープなエッジが、相反するたおやかさと見事に溶け合って308GTBのスタイルの魅力となっているのだ。 そして、それが実現できた背景には、挑戦と失敗という光と影があった。新たな生産技術の導入で308GTBは生まれ、それが実らなかったことにより、以後そうした手法のデザインは実現出来なくなったのだ。
デザインを実現する舞台裏
自動車のデザインは見目麗しさのみでは存在できない。その形がメカニズムを正しく内包できることはもちろんだが、それ以上にデザインを制約するものがある。それは生産技術だ。 多くの自動車の外板は鋼板で出来ている。ボディパネルを構成する金属にはある程度の強度が求められる。しかし硬ければ良いかと言うとそうはいかない。鋼板はプレス機でボディパネルに形成される。硬すぎるとパネルのプレスができないのだ。もちろん硬さ以外にも様々な制約がある。 複雑な造形になればなるほど、プレスは一度で済まない。段階を追って繰り返しプレスして徐々に形を作っていくのだ。高圧で一気にプレスすればいいのではないかと思う人もいるだろうが、そうやって一気に変形させると鋼板が破断してしまう。もちろん技術や素材の進歩によって、その自由度は徐々に向上している。しかしどんなに複雑な工程を構築してもプレスで作れる形には自ずと限界があるのだ。 ボディデザインは材料と加工技術の両方に依存する。これは現在でも同様で、例えば日産マーチは現行モデルから日本国内生産を止めた。いまやタイや中国、インドなど世界中の人件費の安い国で作られているのだ。となればそうした世界各国で調達できる部材とプレス技術で生産できるデザインでなくてはならない。日本の優秀な性能の鋼板とプレス技術を前提にできないハンデがそこにはある。 最近とみに複雑さを増した国内生産車のデザインと比べてみるとよく解るが、マーチの造形は決して複雑では無い。しかしより新しい素材と技術をつぎ込むことだけが戦略ではない。日産はそうしたコストダウンで販売価格を抑え、新興国マーケットで有利に戦う道を選んだ。それもひとつの挑戦の形だと言える。