フェラーリ308GTBのデザインに秘められた挑戦と失敗
しかし忘れてはならないのは、もし308GTBがFRPボディを採用していなければ、あのたおやかさとシャープさを見事に融合させたデザインは生まれていないということだ。鋼板ではやってはいけない不合理な形に産み落とされたデザインがあの美しい姿なのだ。 フェラーリはその後も時代時代にその名に恥じぬスタイルを実現して多くの人の憧れとして存在し続けて来た。しかしピニンファリーナが、目の上のたんこぶとも言えるプレス技術の制約から解放されたその一瞬、革命の様な大きな飛躍を夢見たその時、視界が一気に開けた自由の中で、勇躍新しいスポーツカーの形を描き出した時の爆発力と同じものは見ることができない。 FRPという新素材にチャレンジすることで、高い運動性能と飛躍的に美しいスタイルを実現した308GTBは、オイルショックの煽りを受け、ライバルがバタバタと倒れる時代に、まずまずの成功を収めた。しかしおそらくビジネスとしてはフェラーリの期待を満たす成功にはならなかっただろう。それでも308GTBによって作り上げられたフェラーリのイメージは今でもフェラーリにとって巨大な遺産になっているはずである。 (池田直渡・モータージャーナル)