加速する高齢化、救急態勢見直し…地方が悲鳴を上げる「医師の偏在」の実態
都市部など一部地域に人材が偏る「医師の偏在」を巡り、医療現場が苦悩を深めている。地方では医師の高齢化が加速しており、救急態勢の見直しを迫られる医療機関も。「このままでは地域医療を守り切れない」。砦(とりで)を守る現場医師たちの思いは切実で、偏在の是正に向けて厚生労働省は年内にも、総合対策をとりまとめる。 【感染症の報告数】インフルエンザ、例年よりも早く「流行入り」 コロナ、マイコプラズマ肺炎との“3種流行” ■70代が月8回の当直勤務 「当直勤務は昔、55歳くらいになると免除されていたが、今は60代以上にもお願いしなければ回らない。月8回ほど当直に入る70代の産婦人科医もいる」 16診療科と約400の病床を持ち、地域の中核病院として多くの急性期患者を受け入れる「阿南医療センター」(徳島県阿南市)の前田徹院長(66)は、こう打ち明けた。 約45人いる常勤医の平均年齢は53歳。前田院長も朝7時半ごろには始動し、外来診療のほか週平均で5件の手術も担う。帰路につくのは夜9時ごろが多く、自身も月1回ほど、当直にも入る。 徳島県は医療機関で働く人口10万人当たりの医師数が令和4年末時点で335・7人と、全国トップ(全国平均262・1人)。だが人材の52・22%は徳島市に集中し、医師不足が深刻な他地域では人材の高齢化が著しい。 同センターは徳島大病院から医師派遣を受けるが、近年は同大の医学生は国家試験合格後、県外に出ていく傾向にある。派遣してもらえる若手・中堅医師は少なくなっており、県南部では勤務医のみならず、開業医の高齢化も進む。後継者がなく、閉院を模索する動きも広がっているという。 「10年先には地域医療を支える人材がいなくなるかもしれない」。前田院長は危機感を隠せない。 ■引退の理事長も復帰 地域だけでなく「診療科の偏在」も影を落とす。 医療機関で働く人口10万人当たりの医師数が4年末時点で全国最少(180・2人)の埼玉県。特に深刻なのが、1市4町からなる秩父医療圏(人口約9万2千人、同年末時点)だ。 同医療圏は夜間・休日に入院が必要な救急患者を交代で受け入れる輪番制を導入。かつて7病院の参加があったが、医師不足を背景に離脱が相次ぎ、今は3病院で回している。