マイナ保険証、政府のPRする「メリット」が二転三転する理由…最近は「なりすまし・不正利用防止」を強調も“実はマイナス”の指摘
すでに「回収がきわめて困難なコスト」が生じている
次に、よくみられる意見として、マイナ保険証により「デジタル化」が進み、長期的にはコスト削減が期待できるというものがある。すなわち、「導入の際に多額の初期費用がかかることはやむを得ない」「長い目で見れば現行の健康保険証を残すほうがコストが大きい」というものである。 しかし、北畑氏は、そこには大きな誤解があると指摘する。 北畑氏:「民間企業で大きなプロジェクトを行う場合、投下資本を何年で回収できるかという『損益分岐点』を算出し、経営計画書等を提出し稟議を通す必要があります。しかし、マイナ保険証についてはそのような計算が行われていません。 厚生労働省は、2023年8月の『社会保障審議会医療保険部会』で、保険証を発行しないことで年間76億円程度(マイナ保険証登録者52%と想定)~108億円程度(同70%と想定)の『コスト削減』になるとの試算を示しました。しかし、これは保険証の発行コストの削減のみです。 その計算には、マイナ保険証を持たない人等に『資格確認書』を大量発行する際にかかる郵便料金の2024年の値上がり分、2023年補正予算で『マイナ保険証推進費』として計上された887億円、マイナポイント事業で予算執行された1兆3779億円、年間100億円単位でかかると想定されるマイナンバーカードシステムの運用費(※)等が含まれていません。 これらを考慮に入れると、すでに何十年かかっても回収の見込みが立たないことが明らかであり、費用対効果が見合いません。マイナ保険証を推進したいのであれば、コスト削減効果を強調するのはかえってマイナスになると考えられます。 『初期にコストがかかっても仕方がない』という論法はマルチ商法の勧誘と同じです。民間企業と同じ理屈で考えたときに、あり得ない話をしています」 ※参照:朝日新聞デジタル2022年11月14日記事
改善されない「トラブルの発生状況」と「回避困難なトラブル」
新しい仕組みを導入する際の常として、「最初から完璧を求めるのは無理。とりあえず導入して改善していけばいい」という意見もある。しかし、北畑氏は、状況は当初より改善するどころかむしろ悪化していること、改善が構造的に困難であることを指摘する。 北畑氏:「全国保険医団体連合会(保団連)のアンケート調査(※)によると、マイナ保険証が導入されて2年になりますが、トラブルは減るどころかむしろ増加しています。トラブルの内容は変わり映えせず、事態がいっこうに改善されていないことがうかがわれます。 ところが、トラブルにどう対応するか、いつ改善するかというロードマップすら示されていません。 また、マイナンバーカードが期限切れになったのに気づかずに使用してトラブルになるケースが増えています。マイナンバーカードには2つの期限があり、カード自体の期限が『10年』で、『電子証明書』と呼ばれるe-Taxやマイナ保険証などなんらかのシステムサービスを使う際に用いる認証ソフトの期限が『5年』となっています。 加えて、2020年に『マイナポイント』を目当てにマイナンバーカードを作った2000~3000万人が、2025年に一斉に電子証明書の期限を迎える『2025年問題』があります。それに伴い、医療現場で資格確認ができないなどのトラブルが増えることが予想されます。 直近の調査でもすでにその兆候が見られており、先行してポイント目当てで登録したユーザーが資格確認をできないとの数値が出始めています。 このトラブルは構造的に避けられないものです。なぜなら、保険者(地方公共団体、健康保険組合等)がそれぞれの加入者のマイナンバーカードの期限を知る手段がないからです。 平デジタル担当大臣は、マイナカードの期限が切れることを通知するアプリを作ると発表していますが、『いくらお金を使えば気が済むのか』という話です」 ※参照:全国保険医団体連合会「5月以降のマイナ保険証トラブル調査」 たしかに、マイナンバーカードの仕組みは、そもそも健康保険の仕組みと整合するように作られてはいない。したがって、その構造に起因するトラブルの解決は困難を極め、多額の費用と人手が費やされることが想定される。