マイナ保険証、政府のPRする「メリット」が二転三転する理由…最近は「なりすまし・不正利用防止」を強調も“実はマイナス”の指摘
問題視すべきは「保険料を支払えない状況」
北畑氏は、「健康保険証の不正使用」よりも、むしろ、健康保険の保険料を「支払えない状況」にこそ目を向けるべきだと指摘する。 北畑氏:「この問題は『生活保護バッシング』と同根です。 不正使用で社会保険制度に『ただ乗り』している件数よりも、むしろ、社会保険料を払えないほどの貧困状態にある人や、経営状態が悪化している事業者のほうがはるかに多いことが想定されます。そのような実態にこそ目を向けるべきです」 この点について、東京商工リサーチの調査によると、2024年1月~10月の「税金滞納(社会保険料含む)」を一因とする倒産は155件(前年同期比121.4%増)に達している。その背景として、社会保険料の取り立て・差押えが厳しいことが指摘されている。 また、国民健康保険については、2023年6月時点で滞納世帯の割合が11.5%に達している(出典:厚生労働省「国民健康保険(市町村)の財政状況」)。 これらのデータからは、社会保険料の支払いに窮している人・事業者が多いことがうかがわれる。
効果が乏しい「健康保険証の不正使用へのペナルティー」
北畑氏は、不正が発覚した場合の「ペナルティー」の意義や効果も乏しいと指摘する。 北畑氏:「前述したように、わが国で暮らす人は社会保険に加入して社会保険料を支払う法的義務から逃れることはできません。支払わない、支払えない場合には厳格な取り立てや差し押さえが行われています。 所得がなくて、差し押さえるものすらない人が『なりすまし』等をして他人の健康保険証を不正使用する可能性はゼロではないでしょう。しかし、そういった人々を厳しく取り締まってペナルティーを課すことにどんな意味があるでしょうか。 保険料を取り立てようがありません。逮捕して刑務所等に収容したらこれまたコストがかかるという話もできてしまいます。 不正利用の防止に無尽蔵にリソースを割いていけば、結果的に医療費に跳ね返ってきます。社会保険制度の『コスト』の話をするならば、その程度の思考実験はしたほうがいいのではないかと考えます。マイナ保険証においてはすでに『医療DX推進体制整備加算(※)』という制度が作り出され、私たちの医療費に跳ね返るということも起きています」 ※医療機関でのマイナ保険証の利用率等に応じて診療報酬・調剤報酬に加算をするしくみ