マイナ保険証、政府のPRする「メリット」が二転三転する理由…最近は「なりすまし・不正利用防止」を強調も“実はマイナス”の指摘
「医療情報の速やかな共有」等はマイナ保険証と“無関係”
政府は「医療情報の速やかな共有」を「マイナ保険証の効果」としてPRしている。しかし、北畑氏は、それがマイナ保険証による便益ではないという事実を指摘する。 北畑氏:「医療情報の共有は、『電子カルテ』『電子処方箋システム』が普及することによって実現するものです。 マイナ保険証のメリットでもなく、現行の健康保険証のデメリットでもありません。 電子処方箋については、厚生労働省もHPで公式に、医療機関の窓口に『健康保険証』を提出して電子処方箋を利用する方法を説明しています(※)。 マイナ保険証とは何の関係もありません」 ※参照:厚生労働省「電子処方せんはどうやって使うの?」 他にも、マイナ保険証による「システムの簡素化、ネットワークの構築等」を急がなければ、世界の潮流、経済発展から取り残されるとの意見がある。たとえば、日本では新薬の承認が遅く、海外からの評価が下がっており、先進国が行うグローバル試験(国際共同治験)の対象から外れているなどの弊害があるとする意見などがみられる。 これらについて、北畑氏は「マイナ保険証の是非とは本質的に無関係な議論」と述べる。 北畑氏:「現に、他の先進国ではマイナ保険証のような一元化のシステムは導入されていません。 また、そもそも、日本の健康保険制度の成り立ちや前提自体が、マイナ保険証の制度を導入する際に参考としたエストニア(※1)や台湾(※2)とまったく異なります。 エストニアも台湾も、国が一括で保険証を管理しています。これに対し、日本では、会社員の健康保険を企業ごとに管理しているので、マイナ保険証にしても、社保であれば転職に伴う切り替え等の手続きに時間がかかります。また、国保であれば引っ越した際に保険証の切り替えで同様の問題が起きます。実際はマイナ保険証のほうが現行の保険証よりも切り替えに時間がより長くかかるようですが(※3)。 『効率化』に徹するならば、エストニアや台湾のように国が一元的に管理する方式しかないかもしれません。これはかなり地道で労力のかかるものであることは言うまでもありません。 それなのに、見てくれだけ真似をして『保険証をマイナンバーカードに統合すればどうにかなる』と考えていたのではないか、と私は疑っています。 『効率化』を重視するならば、健康保険証と呼ばれる『紙・プラスチック』を使うのか、マイナ保険証という『プラスチック』を使うのかは本質ではないのです。『デジタル化』という表面上の『見てくれ』に惑わされるべきではありません」 ※1:エストニアでは全国民に公的な身分証明書(国民IDカード)が発行され、健康保険証として利用できる ※2:台湾では健康保険証(全民健康保険ICカード)に身分証明書番号と写真が記載され、健康保険に関する情報が保存されたチップが内蔵されている(身分証明書とは別) ※3:保団連の上記調査では、マイナ保険証のトラブルのうち、転職や引っ越し等による資格変更時に情報が更新されず『無効』と表示されるケースが47.8%を占めた