“茶会”であり“リレーショナルアート”。森美術館で行われたシアスター・ゲイツのクローズドイベントをレポート
当日の流れ
今回の森美術館での「茶美会」は、展覧会会場を移動しながらの体験となる。まず参加者は、本展冒頭の「神聖な空間」セクションに集結。同空間では半畳の畳が敷かれ、「黒節分/WHITE2BLACK」でも用いた《木彫 "竹尺八花入" 写 須田悦弘作》が飾られた。千利休作とされる《竹尺八花入》を写した花入と、シアスターの作品である《アーモリー・クロス #2》が並ぶかたちだ。 続いて、作品《Oh, the Wind》を抜けて「ブラックネス」の部屋へ。ここでは献茶が行われた。献茶とは崇敬の心をもって、神仏、宗祖、先師に茶を供える儀式のことで、今回はシアスターと父との関係性を示す「タールペインティング」による作品を祖先に見立て、伊住が茶を点て、シアスターがそれを作品に献げた。茶碗は伊住の父・政和の手造りによる《黒茶碗 銘南山》が用いられた。先代からの継承を創造につなげることへの共感と敬意が込められた。 茶室に入る前のしばしのリラックスタイムは、本展最後の部屋である「アフロ民藝」で。備え付けのDJブースを用いてシアスターがパフォーマンスを行った。『古今亭志ん生名演集』のLPレコードなども交えたユニークなミックスだ。 そしてクライマックス。展覧会の会場外に設けられた茶室では、亭主3名、客9名の合計12名が、お互いのために茶を立て合った。本来、茶会では亭主と客の役割が厳密に分けられているが、ここでは亭主と客の境界線の消失が目指された。「分断」を「美」と「寛容」に変換するというコンセプトをもっとも表現するパートだ。 茶会のテーマを示す掛け軸は《竹画賛「松無古今色」又玅斎筆》。これは「竹有上下節」と続く禅語に由来する言葉であり、伊住による掛軸の説明から「分断」とは異なる世界が示され、茶会がスタートした。花入には、シアスター・ゲイツ《みんなで酒を飲もう》の為に制作された貧乏徳利が用いられた。花は宗旦木槿。 茶会の菓子を作るのは、本茶会に客としても招かれている料理家の船越雅代(レストラン/スタジオFarmoon主宰)。「分断」の対岸を示す本茶会の趣旨を受けて考案されたのは、一枚の水田で様々な品種の米を育てる自然栽培の方法によって作られた「虹いろ米」(ハピー農園)で、餡と一粒の葡萄を包んだ餅菓子。葡萄は利休の茶会で菓子として用いられたことのある果物である。 その後、参加者は枯松葉によって囲われた茶席に誘われ、順に入れ替わりながら茶を点て合う。この点において、リテラシーによらない「寛容」の在り方が実践された。この折、掛け軸は「鉄腕アトム」第154話「青い鳥物語の巻」で、アトムと学校の友達が3人で歩く場面の《鉄腕アトム セル画》の掛け軸に掛けかえられた。 また、用いられた水指は《箪瓢水指 野々村仁清作》。薄茶器は《青銅製中棗”Usuchaki” 畠山耕二作》。茶杓は1992年に開催された「茶美会 然」に参加した建築家・葉祥栄作の《竹茶杓》。仁清は作家としての意図を持った陶工であり、その作品を採り入れることで「アフロ民藝」の哲学にアプローチする意図だという。 茶美会のクリエイティブディレクターも務めるナカヤマン。は「昨年、茶道における『主客一体』と『リレーショナルアートの定義』の重なりに惹かれ、リレーショナルアートとしての茶事を企画しました。それからわずか半年で『Soul Food Pavilion』(*2)を催したシアスター・ゲイツとのコラボレーションが実施できたことを光栄に思います」と語る。 このイベントを、伊住は次のように振り返る。「茶美会は現在、アーティストとともに茶の湯文化が有する美学の探究と実践を行う活動に取り組んでいます。彼と茶の湯について語り合ったなかで『美』と『寛容』というキーワードが表れ、より寛容であるためにはという真摯な自問自答に強い共感を覚えながら企画の検討が進みました。その結果、主客の関係性を再構築する一会の提案に至りました。今回は試みの要素が大きいものでしたが、ひとつの方法として今後も実践を重ねたいと考えています」。 異文化との接触を通して自らの美学をさらに深化させていったゲイツ。その姿勢に触発されるかたちで開かれた今回のイベントは、長い伝統を持つ茶の湯文化の、しなやかで開かれた側面に光を当てのではないだろうか。 *1──https://www.kyoto-np.co.jp/articles/thekyoto/1256680 (一部有料記事) *2──2012年に行われた、アフリカン・アメリカンの歴史を伝えるソウルフードを中心としたプロジェクト
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