淡路島に建てた両親のための家が話題。若手建築家による斬新なコンセプトと家づくり
小さな“気づき”の後では、建物の見え方や感じ方が変わる
敷地に隣接する工場群は、青や緑の外装が使われています。 板坂さんは、さり気なくこれを玄関の庇の色調にリンクさせました。板坂さんの友人が「半麦ハット」を訪れた際、説明もしていないのに「来てみて、なぜこの青なのかすごく納得した」と話したそうです。 寝室の床と鉄骨のベースの取り合いのディテール。当初、お母さまは温室の鉄骨が表出することに抵抗感をもっていたため、ふさぐ予定でした。 しかし、「きれいだから残したら?」という意見に変わり、このまま生かすことになりました。 友人とお母さまとのこのやりとりは、板坂さんにとって、2人がこの家を通して街やその先の暮らしを見ているのかもしれない、と実感するうれしい出来事だったといいます。 些細な“気づき”や“変化”の前と後では、2人が見ている世界は確実に少し違っているはず。 建物に名付けた「半麦ハット」とは、淡路のホームセンターに売られている麦わら帽子とバンダナが合体したものから命名しました。 それを見るだけで、過酷な農作業に対する切実な工夫に思いが巡る。 そんなふうに、板坂さんはモノの向こう側を想像させる建築を目指しています。
コラム/街の雰囲気を1つの住宅に落とし込む?その斬新なアイデアとプロセスを解説!
学生時代の研究に始まり「半麦ハット」という実作にまで至った、その過程をダイジェストで紹介します。 【過程1. 学生時代の課題で見つけた設計方法の手掛かり】 学生時代の研究課題で、東京・蒲田での都市計画を構想。 古い町工場と新しい住宅街が無秩序に入り組む都市。板坂さんが着目したのは、周町工場に散見された、後付けしたような外階段や物置などの「街のカケラ」。 それらを、既存住宅にコラージュすることで、建物に新しい形や用途をつくり出し、ひいてはその街らしさや調和を生み出そうと試みました。 【過程2. 新築に応用するとどうなるか?淡路での「カケラ」集め】 街の観察と設計を繰り返し、引用できる素材や形、色を模索。板坂さんはこの作業を「キャスティングとコーディネート」と呼びます。 花や野菜を栽培するための農業用温室。「半麦ハット」は、温室業者に依頼して実際にその構造を使っています。 周囲の住宅の外壁に多用されるサイティング材。 材料が余ったのか、公園の土留めに応用される姿を発見。板坂さんにとってはこれもリアルな街の「カケラ」。 近隣住宅から護岸用通路に渡された橋。形やデザインはまったく違いますが、「この街らしさ」の一例といえます。 【過程3. 「カケラ」をひとつの家につなぎとめていく】 一般的な構造や単純な建ち方とは異なり、さまざまな要素が複雑に交ざり合う難しい現場。 しかし、そのディテールの詰めとこだわりこそ、この家をチグハグに見せない要でした。 一つひとつの部材の収まりや取り合いを現場で丁寧に検討しながら、家の全体像を描いていきました。 (モダンリビングNo.258 2021年9月号より)
いかがでしたか? 板坂さんの独自の目線や、設計案の深め方など、異才ぶりがわかったのではないでしょうか。 これからも板坂さんの取り組みから目が離せません。