淡路島に建てた両親のための家が話題。若手建築家による斬新なコンセプトと家づくり
実例/両親のために設計した淡路島のセカンドハウス兼ショップ
「半麦ハット」は、板坂さんの両親が将来の移住を見据えて淡路島に求めた週末住宅兼ショップです。 新しい土地で暮らしをリスタートする両親のために、板坂さんは建築が生活と街の関係を取りもつ手掛かりになるような設計を目指したといいます。 家の説明に入る前に、このプロジェクトにつながる板坂さんの大学時代の課題について少しご紹介しましょう。 それは東京・蒲田を舞台に取り組んだ街づくりの研究です。(後のコラムも参照ください)。 この課題で得たのは、街に点在する「カケラ」を引用し、1つの建物に組み合わせるという発想。 蒲田では空想かつ新築ではなかった案を、いざ実際の建築として建てるとどうなるか? 大学院の修了制作を兼ねて、淡路の計画に着手しました。
敷地の周辺で見つけた街の特徴を、住宅のデザインに取り入れる
淡路でも周辺の建物や風景の観察から開始。 断片的な「カケラ」を板坂さんの視点で再解釈し、1つの家につなぎとめていく設計がなされました。 敷地のある東浦町は漁業と農業が盛んで、近年は移住者向けの宅地開発も多く見られます。 「一見バラバラなのですが、産業に使われる資材や色、住宅の素材など、街としての全体像というか、つながりみたいなものは雰囲気としてある気がして。 代表的なコレというのはないのですが、今回の建築のなかに、ある1つのストーリーがつくれるのではと思いました」 山が2つ連なった建物の骨格は、農業用温室の架構を採用。 アプローチの庇の波板は、海苔工場の屋根に使われるものと同じ。 潮風対策としてこのエリアでよく用いられている外装の水色を、屋根や家具にも取り入れました。 周辺建物の外壁に多用されるサイティング材は、一部の壁とリビングの窓台にも転用してみる…。 などなど、複数の「カケラ」を組み合わせるために、異なる物同士を同居させるバランスや部材の収まりには腐心したといいます。
さまざまな要素がチグハグにならず、優劣なく調和するための工夫
「物を組み合わせるとき、物の強弱ってあると思っていて。ここでは、どれが強いでも弱いでもなく、すべての要素の均衡を保ちたいという理想があったので、そのチューニング(調整)は丁寧に行いました。 一般的に建築は、敷地の余白の取り方や部屋の配置など大きなところから始めて、収まりや素材選びなど小さなところをつくっていく流れが普通です。でもそうすると、細部が街のあり方とどんどん遠くなっていく気がしたので、今回は大きなところと小さなところを行ったり来たりしながら同時並行的に進めました」 なぜ内壁の塗装はやや黄みがかったウォームグレーなのか? 「温室の鉄骨の工業的で冷たい印象を和らげるため」 なぜキッチン横の構造柱は木材が一部露出しているのか? 「空間の曲がり角にあって、手すりになってくれるから」 さらに「その構造柱は将来的にロフトをつくるためにも必要で…、ロフトをつくるなら温室の天井高は何メートル必要になって…、そもそもなぜ温室かというと…」。 と、どこか一カ所を説明しようとすると、ゆるゆると全体の話に広がり、また細部へ戻ってくるという、すべてが相関し、一連になっていることを知る楽しさと発見があります。