淡路島に建てた両親のための家が話題。若手建築家による斬新なコンセプトと家づくり
東京藝術大学の専攻科を首席卒業した後、若手建築家の登竜門ともいえるUnder 35 Architects exhibition 2021でゴールドメダルを受賞。 20代前半で独立し、間もなく名誉あるアワードを受賞するなど、今もっとも熱い視線を集める若手建築家が、板坂留五さんです。 【写真で見る】温室の骨組みを家の構造に、いったいなぜ?他にも気になるところがたくさん! 独自の着眼点や思考力が評価され、さまざまな専門誌やメディアで論考を執筆するなど、活躍の場を広げています。 そんな板坂さんに、デザイン哲学をインタビュー。Under 35 Architects exhibition 2021を受賞した実例「半麦ハット」もご覧に入れます。
板坂さんの設計哲学/「気づき」のある空間づくり
板坂さんへのインタビューの終盤、些細な会話のなかに印象的な言葉がありました。 「多くの方が“空間”っていうものに対して実感がないというか、そういわれてもピンときていないんじゃないかと感じていて。 でも例えば、自分の家のソファの向きを変えてみるとか、棚のうえに花瓶を置くとか、そんな小さな行動がもうその人の空間づくりなんですよね。 だから、空間を怖がったり、謙虚になったりしないで、もっと素朴に向き合ってくれたらなと思うんです」 何気ないセリフに表されるように、板坂さんのデザインは、強いコンセプトや形で人を圧倒するようなものではなく、受け手が「自分事」として捉えられる小さなきっかけにあふれています。 設計で何を大切にされていますか?と尋ねてみました。 「長い暮らしのなかで、“気づき”が更新されたり、“変化”に応じられたりする空間をつくりたいと思っています。 何か生活の条件が変わっても、その空間を捨てなくて済むように。考えて住みこなすほうが、暮らしぶりが楽しそうだなって思うんです。 設計する立場として私は、機能と形がかっちり決まり切った窮屈な空間でも、逆に何とでもできるフレキシブルな空間でもなく、その間のようなあり方に可能性を感じています」 デザインする際に板坂さんが意識的に試みるのは、小さな「!」や「?」を抱かせるスイッチを用意しておくこと。「気づきの種」を設計にひそませておく。 それが、空間や暮らしに対する住み手の“感度”を刺激し、人と物との間に関係性が生まれる豊かな体験につながっています。