「噛む力」が弱いと「循環器疾患」リスクが5倍に!上皇陛下執刀医が教える歯と心臓の密接な関係「歯が多い人ほど認知症・転倒リスクは下がる」
◆食べ物を噛み砕けなくなると、結果として動脈硬化が進む また、われわれが噛む動作をするときは、咀嚼筋(そしゃくきん)だけでなく、舌、口蓋、喉(のど)、咽頭などさまざまな筋肉が動きます。 噛むことでそうした筋肉が緩むと副交感神経の働きが高まり、心拍数を上げたり血圧を上昇させたりするストレスホルモンの過剰な分泌が抑制されることもわかっています。 一定間隔で噛むリズムが、副交感神経を優位にするという意見もあります。 さらに、副交感神経とは関係なく、噛む力が弱くなると食べ物をうまく噛み砕けなくなるため、野菜や肉、魚介類といった硬いものを避け、糖質が多く含まれた軟らかいものを選んで食べるようになる。 そうした食生活の変化が動脈硬化を促進して、心臓疾患の発症リスクが高まるという見方もあります。
◆噛む力は、歯の本数にも関係している 噛む力は歯の本数と関係していることも考えられます。 65歳以上の日本人2万人以上を対象に4年間追跡した調査では、歯が20本以上残っている人の死亡率に比べ、10~19本の人で1.3倍、0~9本の人で1.7倍上昇したと報告されています。 歯が多く残っている人ほど認知症や転倒のリスクが低いこともわかっていて、心臓疾患との関連も指摘されています。 こういったいくつもの理論に対してきちんとした科学的な裏づけがそろってくれば、心臓疾患の予防や治療に大いに役立つでしょう。 たとえば、噛む力が強い人と弱い人それぞれのバイオマーカー(生理学的指標)を測定してどんなときに、どのように動いているかを調査します。 噛む力に応じて咀嚼(そしゃく)のスピード、作業効率、食事量、食事内容にどのような変化があって、それが心臓に対してどのような影響を与えるのかデータを蓄積していくのです。 噛む力と心臓疾患の関係をはっきりさせるには、そうした研究や調査の積み重ねが必要で、それによって得られた知見が適切な医療につながっていきます。 噛む力や歯と心臓の関係について、今後のさらなる研究に期待しています。 ※本稿は、『60代、70代なら知っておく 血管と心臓を守る日常』(講談社ビーシー)の一部を再編集したものです。
天野篤
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