「りりちゃん事件」で捜査のメスが入ったホストクラブの闇 渋井哲也
大久保公園周辺の立ちんぼの女性たち
臼井被告は20年ごろ、周囲に「売春店をやりたい」と話していた。コロナ禍で、第1回目の緊急事態宣言が出され、飲食店や性風俗店の経営が厳しくなっていた時期だ。臼井被告が実際に売春店を開いたのは22年ごろだ。日本人女性の立ちんぼが増えてきた時期と一致する。 新宿区の大久保公園の周辺には、立ちんぼの女性たちがいる。性風俗や売春に従事する女性の困りごとを支援しているNPO法人「レスキューハブ」は、新宿にフリースペース兼事務所を設けている。代表の坂本新さんは、立っている女性は時期によってタイプが変わってきたという印象を受けている。 「コロナ禍以前の2018年10月から20年3月ごろは、経済困窮の理由から長らく売春を生業とする女性が多くいました。しかし、20年4月から22年夏頃までのコロナ禍では、立ちんぼ女性が急増しました。コロナによる失職や経済困窮のほか、推し活女性が目立ち始めました。そして、22年秋以降は、立ちんぼ女性が若年化し、推し活女性の割合が多くなってきたように感じます」 大久保公園付近は、立ちんぼをする女性層が時期によって変化していることを実感している。1990年代は、援助交際ブームで都立大久保病院や東京都健康プラザ・ハイジア、大久保公園付近に立つ女子高生が多かった。しかし、児童買春・児童ポルノ処罰法(18歳未満との売買春を禁止)や出会い系サイト規制法(18歳未満の青少年の利用禁止)の制定、都青少年健全育成条例の改正(18歳未満の青少年との性交等を禁止)の影響や、ハイジアの周辺に柵を設置するなど、都や警察が取り締まりをした結果、女子高生の姿が見られなくなった。 その後は同じ場所に中南米の外国人女性が現れた。そして、アジア系の外国人が立つようになり、その時期が過ぎると、一時期は立っている人がいなくなった。この頃、日本では、デリヘルが主流になり、立ちんぼが目に見えにくくなった。コロナ禍前後は、坂本さんの認識通りだが、ここ数年は若年女性が立っていることが多い。 カナ(20代)は、数年前からホストにハマった。「大失恋の後に、友人とホストクラブに行くことになった」と話す。初めてのホストクラブだった。初回料金で安く飲め、何人かのホストと連絡先を交換した。 「でも、応援したいと思ったホストに出会ってしまって。純粋に応援したかったのか、それとも、恋愛とか恋愛ゲームをしたかったのかはわからないです。今になって振り返ると、失恋の穴を埋められた気がしたんです」 ホストクラブに通うようになったカナはそれほど貯金がなかった。そのため、複数のアルバイトを重ねた。会えば会うほど、会いたくなる。そのため、結局、支払いができず、売掛金のシステムにハマっていく。売掛金を返すために、大久保公園に立つことになった。誰かに言われたわけではない。 この頃、大久保公園での立ちんぼ行為はSNSで話題にはなっていた。それを知った地方在住の女性たちが、大久保公園で立つというのも珍しいことではない。一時は、YouTuberの撮影や警察官の見回りが多くなり、立つ女性の数が減ったり、立つ時間を短くしていた。買春男性やYouTuberとのトラブルが起き、また、外国人の売春女性や物見遊山で観光をする男性たちも多くなり、治安悪化が心配されていた。 立ちんぼの女性たちの目的は時期によってかわる。ここ数年は、ホストクラブやメンズコンカフェに行くため、「推し活」の費用を稼ぐための女性が増えてきている。そういう印象を、坂本さんは持っている。立ちんぼ女性が稼いだお金は、“推し活”の売掛金返済に消えていく。