稲葉浩志『tiny desk concerts JAPAN』収録レポ NHKオフィスから世界へ向けて熱唱、レジェンド登場が意味するもの
NPRスタッフが語る『tiny desk concerts JAPAN』
稲葉のライブの収録後、本国アメリカより見学に訪れていたNPRのキース・ジェンキンス氏とゴードン・シン氏に話を聞くことができた。2人は藤井 風が出演した初回に続いて、2回目の見学だったとのこと。日本版に対する印象やアジアの音楽シーンについてなど、短い時間ながらNPRのスタンスが明確に伝わってくる対話となった。 ―まずは今日の収録をご覧になった感想を聞かせてください。 キース:素晴らしかったです。確固たる地位を築いたアーティストでありながら、『tiny desk』の美学を理解した稲葉さんだからこそ成し遂げられたのだと思います。 ゴードン:稲葉さん率いるバンドのエネルギーが全方面から伝わってきました。みなさんも肌で感じたかと思います。私たちは彼らのリハーサルも見学していましたが、本番のパフォーマンスが始まった途端、エネルギーのスイッチが入ったと確信しました。彼は音楽でコミュニケーションを取り、オーディエンスを楽しませ、強いつながりを築いていると感じました。誰もが「私にだけ話しかけてくれている」ような感覚に包まれたのではないでしょうか。素晴らしかったです。NHKチームに祝福を送ります。 ―実際の収録に立ち会ったのは今回が2回目とのことですが、これまでの日本版の過去回の中で特に印象的だった回、アーティストがいれば教えてください。 キース:実際にライブを観たことも影響していますが、正直な意見として、藤井さんは世界中のアーティストと比較しても群を抜いて素晴らしかったです。私たちのプラットフォームの複雑さを逆手にとって、最大限に使いこなしていました。彼のパフォーマンスは世界中の人々と共鳴したことでしょう。それから回を重ねるにつれて感じたのは、映像や音響プロダクションの進化です。私たちが始めたばかりの頃を少しばかり思い出させてくれました。誰かがオフィスにやってきてはギターを演奏するだけだったものが繰り返しの中で成長していき、ある時、ふと「これが『tiny desk』だ」と気づいたのです。NHKは私たちと同じプロセスを辿りながら、同時に加速させ、あっという間に形にしました。今日のパフォーマンスは、まさにそれらすべての結実を象徴していたのではないでしょうか。稲葉さん自身が楽しんでいたことも一つの大きな要因でしょうね。完璧な例でした。 ゴードン:私たちはすべてのアーティストに称賛を送りたいと思っています。有名であろうがなかろうが、それが各々の表現としての形ですから。『tiny desk』にやってきて音楽を披露してくれるすべてのアーティストを尊重しています。なので、良し悪しを決めたくはありません。藤井さんが例に挙がったのは、やはり実際にパフォーマンスを観たことが大きく影響しています。というのも、彼自身の音楽を演奏する喜びが直接伝わってきたのです。つまり『tiny desk』を唯一無二な存在にしているのは、『tiny desk』にやってきたアーティスト自身が音楽を楽しむ、その経験なのです。今や名だたるアーティストを筆頭にたくさんのアーティストが『tiny desk』で演奏することをバケットリストに入れています。その理由は、やはり音楽表現の喜びを実感できる特別な場所だからでしょう。 ―日本版に先立って、昨年10月からは『Tiny Desk Korea』がスタートしています。アジアの音楽の魅力、可能性についてはどう思われていますか? ゴードン:アジア人アーティストたちのポテンシャルは無限大であり、それは大変喜ばしいことだと思っています。韓国の音楽やカルチャーの人気の波に乗りスタートさせた『Tiny Desk Korea』は、『tiny desk』をグローバルにローンチする絶好の機会でもあり、戦略的に進められました。グローバル展開はNPRにとっても新しいプロジェクトでしたので、確実に成功させる必要があったのです。今や韓国人アーティストの人気は計り知れません。韓国語というだけで注目されるのですから。私は韓国系アメリカ人なのですが、近年アメリカでは韓国にルーツを持たなくても、韓国の音楽が好きだからという理由で僕より流暢な韓国語を話す人が多くいます。この状況には驚くばかりであると同時に、もっと韓国語を勉強しなきゃと周囲からプレッシャーをかけられている心地です(笑)。それはさておき、アーティスト自身を上手く昇華した演出や作品のクオリティが人々の共感を呼び、ファンとの結びつきを築き上げているのは誰の目にも明らかでしょう。そういった芸術的センスと表現から、可能性は無限大だと思っています。 ―今後の『tiny desk concerts JAPAN』にはどのような発展を期待していますか? キース:世界中に日本人アーティストを広めるだけではなく、今までにないコンサートのスタイルを提示するという点においても、『tiny desk concerts JAPAN』を成功させたいと思っていて、ここで成功の鍵になるのは、近年の音楽業界から失われつつある「親密さ」だと思っています。きれいに処理されたサウンド、大きなスタジアムでのライブが目立ち、小さなクラブは年々少なくなっています。私たちの取り組みが何かムーブメントを起こす着火剤になれば、それは光栄なことです。もう一つ、『tiny desk』は新たな発見を追求していくというより、継続的なプロジェクトだと私たちは捉えています。日本人アーティストで言うと、これまでに上原ひろみ、Cornelius、おとぼけビ~バ~にアメリカの『tiny desk』でパフォーマンスを披露していただきました。私たちはかねてより日本人アーティストを発信をしてきましたが、今回大きな転機となったのはNHKとのパートナーシップで、共通の美学を掲げ、道を共にする彼らとパートナーを組むことは容易な決断でした。今後は日本の『tiny desk concerts JAPAN』とアメリカの『tiny desk concerts』という異なる二つのプラットフォームを通して、さらなる音楽体験を発信していきたいと考えています。 --- ◎放送予定 <総合> 9月30日(月)23:00~23:29 <NHK WORLD JAPAN (国際放送)> 9月30日(月)0:10~、5:10~、12:30~、18:30~
Atsutake Kaneko