稲葉浩志『tiny desk concerts JAPAN』収録レポ NHKオフィスから世界へ向けて熱唱、レジェンド登場が意味するもの
稲葉浩志が『tiny desk concerts JAPAN』に登場。本日9月30日、NHK総合(23:00~23:29放送)とNHK WORLD JAPAN(国際放送)で放送される。 【画像を見る】稲葉浩志、NHKオフィスで熱唱 『tiny desk concerts』とは、アメリカの公共放送NPR(National Public Radio)が2008年にインターネットでスタートさせた音楽コンテンツ。アーティストたちは文字通り「NPRオフィスの小さな机」でパフォーマンスをし、その斬新なコンセプトから生まれたオーガニックなサウンドと親密な雰囲気で瞬く間に全米の人気コンテンツに成長。パンデミックを経てその人気が全世界に飛び火すると、今やそのラインナップにはテイラー・スウィフトからBTSに至る世界のビッグネームがずらりと並び、日本のアーティストにとっても憧れのプラットフォームとなっている。 そのNPRからライセンス供与を受け、NHKが日本のアーティストで制作をスタートさせたのが『tiny desk concerts JAPAN』。NHK総合/NHK WORLD JAPANで3月に放送された日本版の初回には、日産スタジアムで行われた先日のライブも記憶に新しい藤井 風が登場し、そのパフォーマンスは国内外から大きな注目を集め、YouTubeのNPR公式チャンネルで公開されたパフォーマンス動画はすでに1000万回再生を突破した。その後、5月から国際放送でレギュラー放送がスタートすると、KIRINJI、君島大空、yama、チャラン・ポ・ランタンと、それぞれ独自の個性を持つアーティストが出演し、評判を呼んできた。 そして、9月から『tiny desk concerts JAPAN』がNHK総合でのレギュラー放送を開始するにあたり、最初の出演者となったのが稲葉浩志。言わずと知れた日本を代表するトップアーティスト・B’zのボーカリストであり、デビュー35周年を過ぎた今も止まることなく走り続け、ソロとしても今年リリースの最新作『只者』まで6枚のアルバムを発表。9月23日に還暦の誕生日を迎えた今も衰えることを知らないパワフルな歌声を聴かせ、リスナーとアーティスト双方からのリスペクトを受け続けている。 また、『tiny desk concerts JAPAN』には「日本のアーティストを世界に発信する」という目的もあり、その意味でも稲葉の起用はぴったりだ。B’zとしては2007年に日本・アジア圏のミュージシャンとして初めてハリウッド・ロック・ウォークに殿堂入りを果たし、エアロスミスやリンキン・パークといった海外の大物ミュージシャンとも交流。その実績は申し分なく、記念すべき『tiny desk concerts JAPAN』のNHK総合初回放送にこれ以上の人選はないと言っていいだろう。 では、ここからは実際の収録の模様をレポートしていこう。 ※以下、ネタバレあり 舞台はNHKエンターテインメント番組のフロアの一角に作られた、幅3メートル×奥行き3.4メートルの小さなスペース。収録開始の時間が近づくにつれて徐々にオーディエンス(NHK職員)が集まり、最終的にその数はざっと見で150人くらいはいただろうか。収録の前には番組のチーフ・プロデューサーから「私たちは『tiny desk concerts』を『ライブ・ドキュメント』と呼んでいます。ここで起きる一部始終を撮って、世界で放送しています。ということはつまり、観客のみなさんも出演者ということになります」との言葉が伝えられた。 いよいよ収録の時間となり、稲葉とサポートメンバーの登場に拍手と歓声が起こると、簡単なサウンドチェックを済ませ、再びチーフ・プロデューサーからの挨拶が。「この番組はすでに国際放送で放送させてもらっているのですが、9月からは総合テレビでスタートします。その第一回目に、このスーパースターが来てくださいました。しかも、この番組のためだけにアレンジを組み立ててくれた、スペシャルなセットリストです」「それでは改めて、スタートをコールしたいと思います。『tiny desk concerts JAPAN』、稲葉浩志!」。 1曲目を飾ったのは、1997年発表の初のソロアルバム『マグマ』に収録されている「眠れないのは誰のせい」。稲葉は6月から8月まで全国ツアー「Koshi Inaba LIVE 2024 ~enⅣ~」を行っていて、この日のサポートであるDURAN(Gt)、徳永暁人(Ba)、サム・ポマンティ(Key)、シェーン・ガラース(Dr)の4人はツアーにも参加していたメンバー(なお、DURANは藤井 風の回にも参加しているので、早くも『tiny desk』2度目の出演となった)。しかし、「眠れないのは誰のせい」は「enⅣ」では一度も演奏されておらず、まさに『tiny desk』のためのスペシャルな一曲だと言えよう。 徳永の弾くウッドベースのループを基調としたリズムに乗って、稲葉は両手を胸の前で組んで歌い始める。『tiny desk』の音響面の一番の特徴は「マイクを使わない」ということであり、生声での歌唱、モニターも一切なしという環境は当然通常のライブとは大きく異なるもの。最初はそのフィーリングを確認するように歌い、その意味でももともと音数の少ない「眠れないのは誰のせい」は意味のある選曲だったのだろう。徐々にファルセットも絡めながらより自由に歌われたその歌声は、決してパワフルなだけではなく、非常に繊細でありながら、その上でやはりずしりとした太さと芯を感じさせる。この歌声を生で、数メートルの距離で聴くことができるというのは、なんとも贅沢な体験だ。