稲葉浩志『tiny desk concerts JAPAN』収録レポ NHKオフィスから世界へ向けて熱唱、レジェンド登場が意味するもの
「こんな素敵な時間が待っているとは」
2曲目も同じく『マグマ』に収録の「くちびる」で、原曲はワウギターの効いたロックナンバーだが、この日はエレピとともにしっとりとしたアレンジで聴かせ、サビ前の吐息が生々しくセクシー。「オフィスでやるということで、昨日下見に来たんですけど……ガチオフィスですね。こんなにNHKの人に見られることもないので、圧倒的な圧を感じます(笑)」と和やかなトークを交えつつ、3曲目はミドルバラードの「BLEED」。稲葉はアコギを弾き、DURANもテレキャスターを指で弾いている。また、間奏では徳永とシェーンがお互いを見ながら笑顔で演奏し、一回限りの特別なセッションを楽しんでいることが伝わってくる。 イントロで稲葉がブルースハープを演奏した「ブラックホール」は、自らを「何者でもない普通の人=只者」と自覚し、自身の内面と向き合って制作された『只者』を象徴する一曲。“暗闇を見つめた 穴があくほど”“本当のところ私は 何にでもなれたはずなんだよ ただ迷子になったそれだけのこと”と、目を瞑り、手を組んで歌う姿はまさに自らの内側をジッと見つめているかのようであり、息をするのも忘れるような緊迫した空気が流れる。しかし、曲のラストでは一気にテンポアップし、場内には手拍子が起きて、稲葉もまた膝を叩きながらクルクルと回転し、その姿からは内側の暗闇を一気に解放するかのようなカタルシスが感じられた。 「お仕事は大丈夫ですか?」とにこやかにオーディエンスに語りかけつつ、「いろんな会場でコンサートをやってるんですけど、まだこんなスタイルがあったのかって、人間ってすごいなと思いました」と話し、5曲目の「YELLOW」からは稲葉も立ち上がって、イントロの時点で手拍子が起こる。音量こそ小さいものの、パフォーマンスの熱量自体は高く、その盛り上がりはまるで通常のライブのような雰囲気で、ラストに控えめなジャンプを決めるとフロアは大歓声に包まれた。そして、「すごく素敵な時間なので、他の人にはやらせないでください」と笑うと、最後に演奏されたのは「羽」。ウッドベースとピアノによるイントロとともにメンバーを紹介し、「我々はこの夏ずっとツアーをやってきましたけど、ツアーの後にこんな素敵な時間が待っているとは思いませんでした」と日本語と英語の両方で語ると、途中からリズムが4つ打ちへと変化し、再びフロアには手拍子が溢れ、ラストは“君を忘れない”のシャウトでライブが締め括られた。 収録後の囲み取材で、「日本人の音楽を世界に届ける」ことについて問われた稲葉は「特別な重責は持ってないですけど、今は英語じゃなくても、自分たちの言語で音源を作って、それを届けることが昔よりもスムーズというか、可能性が広がっているので、自分たちもそういうものの一部として見つけてもらって、面白がってもらえれば最高ですね」と答えた。なお、「羽」のオリジナル音源にはB’zよりも先に世界に進出して、アルバムがビルボードトップ100に入り、モトリー・クルーのオープニングとして日本人アーティストとして初めてマディソン・スクエア・ガーデンに立ったLOUDNESSの高崎晃がギターで参加している。“全てはスタイル 飛び方次第 代わりは誰にもやらすな”“違う場所見てみましょう まるで知らないことだらけ”と歌う「羽」は、これから日本を飛び立って世界で活躍するすべてのアーティストへのエールのようにも聴こえた。