米中貿易戦争など数々のイベントリスク 相場の基調を決めたものは何だったのか?
激動の国際情勢の中で、金融市場を揺るがしかねないイベントリスクとどう付き合っていくか。ミリタス・フィナンシャル・コンサルティング代表の田渕直也氏に寄稿してもらいました。 【グラフ】米中貿易戦争 日本経済への意外な「追い風」シナリオ
◇ 今年も残すところ1か月を切った。これまで世界の金融市場には、相次ぐ米中の報復関税合戦、イタリアでのポピュリスト政権の誕生、トルコに代表される新興国危機、合意なきブレグジット(イギリスのEU離脱)への懸念など、次々と「イベントリスク」が降りかかってきたが、結果的には主だった株式市場は大きな動きを見せず、もみ合いを続けてきたといえる。結局のところ、相場の基調を決めてきたものは何だったのだろうか。
イベントリスクは今年の相場の基調に影響せず
世界の二大経済大国である米国と中国が互いに関税をかけあい、報復を繰り返す事態はどう見ても異常であり、グローバリゼーションに大きく水を差すことになりかねない危険をはらんでいる。それどころか、安全保障上の問題も絡んで、米中の関係は「新冷戦」の開始が取りざたされるほどの状態になっている。 ところが、米中攻防の当初こそ、株式市場はショックに見舞われたものの、それも一時的なものにとどまり、関税措置が繰り返されるごとにショックは小さくなっていって、9月の関税第3弾発表後(グラフ上では4つ目の(1))には相場が大きく上昇さえしたのである。 こうしたことは何を意味しているのだろうか。 まず、相場の世界ではいつでも様々なリスク要因が存在している。だから投資は危険だ、という印象が生まれるわけだが、そうしたリスク要因はたいていの場合、浮上してはすぐに消えていくのである。ある意味で、こうしたことは、いつも繰り返されていることなのだ。 実体面に目を向けてみると、とにかく米国経済が絶好調であるということの影響が大きい。日本では今年前半はやや景気の勢いが失速したものの、全般的には良好な状態をキープしている。このようにファンダメンタルズ(経済の基礎的な状態のこと)がいいときには特にそうなのだが、イベントリスクが相場の基調を一変させるようなことは実際にはほとんど起きないのである。 イベントリスクは、ニュース性があり、エコノミストやアナリストも話題にせざるを得ないので、とかく注目を集めやすい。そのため市場にはリスクが一杯あふれている印象が強まるのである。だが、中長期的な投資を心掛ける投資家にとっては、イベントリスクを過度に懸念するのは不要だといえるのではないか。 では、今年の相場で大きく株価が値を下げた場面では何が起きていたのだろうか。グラフで網掛けをした二つの時期(1月末から2月にかけて、及び10月)はいずれも米国の長期金利が大きく上昇した時期に重なる。米国景気が好調過ぎることを背景に金利が上昇し、それが株価を下押ししたのである。結局、今年の株式相場の基調は、好調なファンダメンタルズと、それによって引き起こされた米国金利上昇とのせめぎあいでほとんどを説明できるように思われるのである。