米中貿易戦争など数々のイベントリスク 相場の基調を決めたものは何だったのか?
イベントリスクを無視できなくなるときとは?
前節では、イベントリスクを過度に意識しなくていいと述べたが、もちろんそれは、無視して構わないということではない。イベントリスクを無視できなくなる状況の一つは、大きなお金を賭けているときである。 先ほど漠然と“中長期的な投資”という言葉を使ったが、重要な点として、短期的な相場の上下動に振り回されないためにあまり大きな金額を賭けすぎないことがその前提条件の一つとなる。自分の金融資産のうち大きな部分を投資に回すことは、短期的な相場の上下動に機敏に反応しないと大きな損失を招き得るという意味で、必然的に短期投資にならざるをえないのだ。その場合、イベントリスクにも十分な注意を払っていく必要が生じる。 イベントリスクを無視できなくなるもう一つの状況は、ファンダメンタルズが悪化するときである。 例えば、米国経済の過熱懸念が強まり、長期金利が現在の水準からさらに一段上がるとしよう。そうなれば株式市場は調整を余儀なくされ、その何か月後かには実体経済や企業業績にも影が差すことになるだろう。株価が下落傾向をたどっているときに何か予想外のイベントリスクが生じると、相場の大きな下押し要因となり、しかもそのショックは短期的には回復しにくい。 付け加えると、そうしたイベントリスクは、大方の予想に反したものであればあるほど、インパクトが大きくなる。そして、大抵の場合、悪いときには悪いことが重なりやすい。ファンダメンタルズが悪化すると、想定外のイベントリスクもまた起きやすくなるものなのである。 端的に言ってしまえば、イベントリスクは株価上昇局面では相場の肥やしにしかならないが、下落相場では株価下落を加速させる要因になるというわけである。
イベントリスクは結局米国の金利動向次第
米国では2009年初以降の9年以上、日本でも2012年末以降の6年弱にわたって株式相場は基本的に上昇を続けてきた。その長期的トレンドがいつ終わるのか、断定的に述べることは難しいが、先ほども述べたように、米国長期金利の上昇がそのきっかけになる可能性は大いにあると考えられる。 まだそうなるとは決まったわけではないが、いつかは必ずその時がやってくる。そして、そうなればイベントリスクの影響も否応なく大きくなっていく。長く投資を続けていくうえで、イベントリスクを過度に恐れる必要はないものの、ファンダメンタルズの局面によってその影響度が異なることを知って、上手く付き合っていく必要がある。
----------------------------- ■田渕直也(たぶちなおや) 株式会社ミリタス・フィナンシャル・コンサルティング代表取締役。デリバティブのトレーダー、ファンドマネジャー等を経て、コンサルティング会社を設立。『図解でわかるランダムウォーク&行動ファイナンス理論のすべて』『確率論的思考』(日本実業出版社)『投資と金融にまつわる12の致命的な誤解について』『ファイナンス理論全史』(ダイヤモンド社)『不確実性超入門』(ディスカバー21)など著書多数