「子どもの頃からテニス力に加え人間力も養う必要がある」安藤スポーツ・食文化振興財団による将来を見据えた特別な取り組み<SMASH>
招待選手を11歳と設定した背景には、日本テニス協会の意図がある。「オレンジボウル」など世界の主要なジュニア国際大会の年齢設定は、12歳以下部門から。そのカテゴリーに日本から選手を送り出すとなると、11歳以下の選手を選抜や強化する必要が出てくる。なお今年は、合宿に呼ばれた選手たちの中から若干名を、年末にアメリカへと1週間派遣。「エディー・ハー」や「オレンジボウル」など、複数のジュニア大会への出場も計画している。 また、この合宿の大きな特性に挙げられるのが、充実のコーチ陣だろう。その中には、浅越しのぶさんや土居美咲さんなど、現役時代に世界のトップ30を経験した日本テニス界のレジェンドもいる。特に昨年引退したばかりの土居さんは、子どもたちにとっても現役時代を知る存在。合宿中も休憩時間などには、子どもたちはタオルや色紙を手に土居さんの下に詰めかけ、サインや写真をもらっていた。そのような経験も、参加者たちにとって刺激的な経験になったはずだ。 アメリカ遠征に行ける者や、この合宿に呼ばれる選手は、競技人口全体から見れば一握り。ただ安藤スポーツ・食文化振興財団は、「参加者たちがそれぞれのホームに持ち帰り、色んな仲間やお友だちに『こんな経験してきたよ』と伝えてくれたら、より、このキャンプも意義あるものになるのかなと思っています」と言った。 その願いはどうやら、早々に実現しそうだ。今回、群馬県代表として参加した林亮吾くんは、学んだことを次のように列挙した。 「僕は周り込みのフォアが得意なんですが、本村(剛一)さんから、『もっとボールと距離を取って、間を作って打ったらいいよ』と教わりました。 栄養士さんからは、食事のことを色々と教えてもらいました。特に、エネルギーやたんぱく質が大切なので、食べ物を買う時は、栄養成分表示を見た方が良いというのは凄く印象に残ったし、意識していきたいと思います」 教わったことをスラスラと口にする学習能力の高さに驚くと、林くんは「帰ったら、テニスクラブ(MAT前橋テニスアカデミー)のみんなに報告するので」と言う。3日間のキャンプの中で、彼が五感で感じ取った教えや衝撃は、郷里の友人やコーチたちにも伝播していくのだろう。そして、そのように各地から選ばれた小さな伝道師たちが教えを広め、刺激を受けた少年・少女たちがやがて世界へ羽ばたいていった時こそが、この試みが一つの目的地に到達する時だ。 取材・文●内田暁
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