男たちが自分で股間をまさぐり始める…伝説の踊り子が客たちを手玉に取って「復讐」したかったワケ
本当に裸にさせられているのは男のほう
一条は自身の生い立ちについても、面白おかしく話した。カウスも突っ込んで確認はしていない。多くの踊り子と付き合うなか、男に売られたり、借金の形として連れてこられたりした女性がずいぶん多いのにカウスは気付いたからだ。「そうですか、そうですか」と聞いていると、一条はドラマでも語るように話し続ける。それを聞きながらカウスは、彼女もきっと口にはできない経験をしてきたのだと思った。 そう考えると、一条の芸がそれまでとは違って見えてきた。 「男にだまされてきた。その恨みは深い。その復讐がストリップなのかもわからんと感じたんです。だって舞台の周りで男たちが、一条さんにひれ伏しているんやもん。一条さんは客を自由にあやつって悦に入っている。なかなか脱がない。じらして、じらして。すると男は手で自分の股間をまさぐりはじめる。完全にプライドを奪われている。そんな舞台です」 男たちは肩書を捨て、欲望をさらけ出す。男のほうこそ、裸にさせられているとカウスは感じた。 「彼女が右を向いたら、客は右に波打つ、左に行ったら、左に波です。芸で男たちを支配している。ひざまずかせている感覚やったんとちゃうかな。それほどの芸でした。客は一条さんを見るためだけに一日中、劇場にいる。劇場が変わると、追いかけていく。ええ大人がそこまでするんです。裸を見るだけやったら、そりゃ飽きるわ。芸でひきつけている。男への復讐の芸やと思いました」 『「呼べないなら賞はいりません」中田カウスが「伝説のストリッパー」を漫才の授賞式にどうしても招待したかった納得のワケ』へ続く
小倉 孝保(ノンフィクション作家)