「優秀な社員ほどその場でサインしがち」会社から早期退職を促されたときに注意すべきこととは
コロナ禍を経て、早期退職を募る企業は増加しており、最近では企業のトップが「45歳定年制」を提言し話題となりました。コロナを機にリモートワークを導入する企業も増え、働き方は大きく変化しています。長年、労働問題にたずさわる指宿昭一弁護士は雇用情勢が変化する中で解雇や退職勧奨、パワハラやセクハラなど、さまざまな相談を受けていると言います。名古屋入管の施設で死亡したスリランカ人のウィシュマさん遺族の代理人を務め、アメリカ国務省から「人身売買と戦うヒーロー」にも選出された指宿さんに、いま増えている相談や労働問題について聞きました。(聞き手:荻上チキ/TBSラジオ/Yahoo!ニュース Voice)
早期退職を促す企業が増えている―決してその場でサインしてはいけない
新型コロナウイルスの影響で景気が悪化し、近年早期退職を募集する企業が増加しています。東京商工リサーチが11月に公開したデータによると、2021年の上場企業の早期・希望退職者募集人数は10月31日までに72社、1万4505人に到達。企業規模を問わず、早期退職を募る必要に迫られていることがうかがえます。 ――どのような労働相談が多いでしょうか? 指宿昭一: 解雇や退職勧奨、パワハラやセクハラ、労災などいろいろな相談がありますが、最近は特に退職勧奨の相談が多いです。中でも外資系企業の退職勧奨の相談が多い。よくあるのは会社が一方的に条件を提示して、「この条件で退職してください。同意できなければ解雇になります」と言われたり、「あなたのポジションはもうありません。この場でサインしてください」と言われるケースです。 ――雇用先から退職勧奨されたら、どのように対応すべきなのでしょうか? 指宿昭一: 絶対にその場でサインしてはいけません。一度持ち帰って弁護士か労働組合に相談するべきです。会社に対しては、「弁護士に相談する」と言ってもいいし、「家族や友人に相談したい」と言ってもいいので、とにかく1日でも時間をとるべきだと思います。 ――指宿さんが相談を受けた場合、弁護士としてはどのように交渉を進めていくのでしょうか? 指宿昭一: 私が代理人として会社との窓口になります。私の方で「提示された条件は承諾できません。条件次第では退職も考えますが、いまの条件ならば働き続けることを選択します」と言うと、多くの会社が条件を再検討します。 ただ、難しいのはすでにその場でサインしてしまったケースです。すごくしっかりしたビジネスマンの方なのにその場でサインしてしまう人が結構いるんですよね。その場合、交渉には少し苦労しますが「脅迫されてサインしてしまったものなので、労働者の真意に基づくものではない」という理屈で解決することもあります。 しかし、一度サインをしてしまうと労働審判にまで発展することが多い。そうなってしまった場合は、労働審判の場で「退職させるのであれば、会社はきちんとした条件を提示してください」という方向に進めるようにします。 ――弁護士が介入することで対応が変わる企業もありそうですね。 指宿昭一: そうですね。弁護士が入って条件が変わらないことはほとんどないですね。普通は弁護士が入っただけで激変します。 ただし、本人に解雇されても仕方がないような落ち度がある場合は、さすがに弁護士が入っても難しい。そのときは、労働者が気持ちを整理して次の人生を歩みだせるように話を聞いてあげて、「もうここはすっぱり諦めて次の人生頑張ろうよ」という方向に後押しすることもあります。