「優秀な社員ほどその場でサインしがち」会社から早期退職を促されたときに注意すべきこととは
労使は対等―ビジネスマンも会社と戦える「交渉スキル」を身につけておくべき
――そもそも企業との交渉はどのように進めるのでしょうか。 指宿昭一: 例えば、退職勧奨を受けたとき、「これにサインしないと特別退職金も出さない」と言われると、みんな焦ってサインをしてしまうんです。しかし、そこでサインをせず、自分の意志をちゃんと示して不利な状況にならないように交渉すべきです。労使は対等ですから、労働者は使用者の言われるがままではなく、自分の権利を守るために言うべきことは言うという姿勢が一番大事だと思います。交渉学にはセオリーがあり、がむしゃらに交渉しても失敗するので、勉強をしてスキルを身につけておくと役立ちます。 ――交渉学ではどのようなことが学べるのでしょうか? 指宿昭一: 交渉学にはBATNA(バトナ、Best Alternative to a Negotiated Agreementの略)という概念があります。「最善の代替案」という意味です。例えば、退職勧奨を受けても条件に納得できない場合は「働き続ける」といった、自分の要求が叶わなかったときの戦いに使える武器のことですね。もし解雇されたら、裁判で戦ったり、メディアにも注目してもらうなどいろんな選択肢を持つことも大事。そういった切り札がないとやっぱり戦えないので、BATNAは交渉学のすごく大事な理論なんです。 交渉の際は「ここまで取れなかったら引かない」という一定の線を設けることも必要で、もし「引け」と言われたらBATNAを出していくことが交渉学の考え方です。いざというときは戦うという構えが大事だと思っています。
「45歳定年制」で得する人はほとんどいない
――最近では「45歳定年制」という言葉も話題になりましたが、指宿さんはどうお感じになりましたか? 指宿昭一: 45歳定年制には賛成できませんね。45歳で定年退職して、その後の働き口があってきちんと生活できるならいいですが、いまの日本の労働市場はそうなっていません。45歳で退職させられたら、多くの人はいまよりも条件の悪い環境で働くことになってしまい、ひどい目に合うと思います。一部の退職しても問題ない人たちは、すでに転職していたり、起業していたりと、定年でなくても自ら率先して次のステージに向かいます。日本の現状では、45歳で定年退職しても得をする人はほとんどいないのです。 日本は雇用制度が厳しくて解雇することが難しいけども、欧米は労働者を自由に解雇できるからそのほうが良いという議論もたびたびおこりますが、そもそも労働市場の形が全然違う。欧米は、一つの会社で退職したりクビになっても、別の企業に行って同じ条件で働き続けられるという労働市場になっているところが多いんです。日本の労働市場をそのままにして、終身雇用制をやめるとか、45歳定年制を導入するというのはおかしな議論だと思います。