自転車より遅い超赤字「JR芸備線」は残すべき?廃止?…乗って考えた 「ここで暮らせるのか」嘆く住民、初協議の行方は
備後落合駅の歴史をたどろうと、ボランティアガイドの永橋則夫さん(81)に話を聞いた。元国鉄の機関士で、2017年から駅の清掃やガイドを続ける。 「1970年ごろまでは駅に100人以上が勤務し、駅前は旅館や商店が並んでいましたよ」。しかし、道路網の整備やマイカーの普及で利用者は減少。今の駅前の風景からは、当時の面影を感じることはできなかった。 永橋さんは路線の存続を願う。「芸備線の廃止論は、地方を切り捨てる利益優先の政策だ。本数を増やして観光客を呼ぶなど、前向きな議論をしてほしい」 ▽1日1度のラッシュアワーは… 午後2時過ぎ、山あいのターミナルは1日に1度のラッシュアワーを迎える。芸備線の上下線に加え、島根県方面から木次線の列車が到着する時間だ。 しかし、この日は木次線が大雪の影響で運休中。芸備線の乗客は、カメラを持った旅行者ら5人ほどだった。 栃木県宇都宮市から旅行で訪れた鉄道ファンの50代男性は「景色のよい路線で残してほしい気持ちもあるが、地元の意見を尊重して存廃を決めてほしい」と話した。
乗客らは、駅舎や車両を撮影し、乗り換え列車に駆け込んでいく。下車する人はいなかった。 列車が動き出すと永橋さんが「行ってらっしゃい」と大きく手を振った。 ▽生活の足 備後落合駅から東城駅(庄原市)までは、JR西日本によると2020~2022年度の平均で100円稼ぐのに1万5516円の費用がかかる超赤字区間。1日に上下各3本しか走らない。 岡山方面へ3駅目の内名駅へ向かう。川沿いの切り立った場所にあり、秘境駅と呼ばれる。 そばで暮らす上田ヒフミさん(82)は、駅の掃除を10年以上、日課として続けている。ぞうきんがけや掃き掃除に加え、季節の花の飾り付けもする。訪れた人が思いを書き込む駅ノートのチェックが楽しみだ。 自身は通院や買い物で列車に乗る。「生活の足。1日3本のままでよいから走り続けて」 ▽「何を再構築するのか」 隣の小奴可(おぬか)駅は、地元のタクシー会社が切符の販売を代行している。林嘉啓社長(62)によると、売り始めた1983年頃は月300万円ほどあった売り上げも、今は3千~5千円だ。