改善の第一歩は「認める」ことーー「原因不明」のイップスに、医科学的エビデンスで挑む
「認める」ことで症状と向き合う
イップスを発症後、低迷していた福谷は2020年に8勝2敗、防御率2.64と復活を遂げた。今季は開幕投手を務めるなど、チームの中心投手として活躍している。
だが、福谷はきっぱりと「(イップスが)治ったという実感は、正直に言ってまったくありません」と言い切る。 イップスを克服できていないにもかかわらず、なぜ試合で投げられるのか。そう聞くと、福谷はこう答えた。 「心のこと、体のことを勉強して、いろんなことを試して、自分自身を武装していったんです。その積み重ねで今の自分がいるのだと思います。特効薬はありませんから」 イップス改善の第一歩は、「認める」ことだと福谷は言う。 「いろいろやってみて、『これだ』という改善策はなかったんですけど、まずは自分がイップスだと認めること。イップスを理解して、どうするかを考えて、一つずつ処理していくしかないんです」 2018年秋の契約更改終了後の記者会見で、福谷は自分がイップスであることを公言している。「敵に弱みを見せたくない」という心理が働くため、イップスであることを認める現役選手は極めて珍しい。なぜ公言したのか。 「影響のある立場として、もし同じように悩んでいるアスリートがいたら、少しでも力になりたいと思ったんです。苦しい時に『あの人もイップスでも頑張っているんだな』と思ってもらえたらうれしいなと」
悩める選手と現場で向き合う石原は、こんな決意を語った。 「すでに、さまざまな大きさのボールを投げるなど、イップス改善に効果の見られるドリルもいくつかはあります。でも、個人の経験則ではなく、医科学的にエビデンスのあるものを一つ一つ増やしていくことが大事だと考えています。今回の論文はあくまで第一歩で、まだまだイップスについてはわからないことばかりです。それでも、イップスで苦しむアスリートが一人でも減るように、これからも研究し続けていこうと思います」 --- 菊地高弘(きくち・たかひろ) 1982年生まれ、東京都育ち。野球専門誌「野球太郎」編集部員を経て、フリーの編集者兼ライターに。近著に高校野球の越境入学生をテーマにした『オレたちは「ガイジン部隊」なんかじゃない! ~野球留学生ものがたり~』(インプレス)がある。