2か月前に流した悔し涙は忘れていない。リベンジマッチに挑む横浜FCユースMF中台翔太が劇的同点弾で引き寄せた『三ツ沢の奇跡』
[9.23 プレミアリーグEAST第15節 横浜FCユース 3-3 FC東京U-18 ニッパツ三ツ沢球技場] 【写真】ジダンとフィーゴに“削られる”日本人に再脚光「すげえ構図」「2人がかりで止めようとしてる」 7月23日。陽が傾き始めた夕刻の宮崎。試合が終わると、悔し涙が止まらなかった。 『第48回 日本クラブユースサッカー選手権(U-18)大会』のグループステージ第2戦。横浜FCユース(神奈川)は同じプレミアリーグEASTに所属するFC東京U-18(東京)と対戦。試合は前半8分に先制ゴールを奪ったFC東京U-18がそのまま1-0で勝利したが、横浜FCユースの11番を背負うMF中台翔太(3年=横浜FCジュニアユース出身)は唯一の失点に繋がった自身のボールロストに、大きな責任を感じていた。 「クラブユースの時の失点は自分が奪われて、カウンターを食らっての失点だったので、本当に凄く悔しくて、試合のあとに泣いたんです。それもあって、今回は絶対にやらないといけないという気持ちがありました」。自らのミスでグループステージ敗退を突き付けられたあの日から、ちょうど2か月後に再びFC東京U-18と激突するリベンジマッチ。中台は並々ならぬ決意を携えて、三ツ沢のピッチに足を踏み入れる。 「今日は後ろ向きなプレーはやめて、『全部前に行く!』みたいな気持ちでやりました」。右サイドハーフに入った中台の選択肢は、常に前へ。サイドバックを務めるキャプテンのDF小漉康太(3年)との連携も交えながら、タッチライン際の主導権をじわじわと引き寄せていく。 チームも立ち上がりから積極的な攻撃姿勢を貫くと、29分には小漉のスルーパスからFW庄司啓太郎(3年)が先制ゴール。41分にはMF朝見友樹(3年)、庄司と繋いだボールから、中台にも決定機が到来。左足で放ったシュートは相手DFにブロックされたものの、結果への強い意欲を滲ませる。前半のシュート数は10対0。最初の45分間はホームチームが圧倒して、ハーフタイムへ折り返す。 風向きが大きく変わったのは、後半のファーストピンチだった。2分。右サイドを崩されると、クロス気味のシュートはDFに当たってコースが変わり、そのままゴールネットへ吸い込まれる。「自分たちで『後半の入りはハッキリやって、失点なしで行こう』という話はしていたんですけど……」と中台も振り返ったが、この同点弾からアウェイチームは完全に息を吹き返す。 9分にはオウンゴールで逆転弾を献上。さらに終盤に差し掛かっていた33分には、再び右サイドを突破された流れから3失点目。残り10分あまりで2点のビハインド。「正直天を仰ぐ感じで、『厳しいな』という想いはあったんですけど、諦めるわけにはいかないですし、『もう1点ずつ返すしかない』と思いました」(中台)。厳しい状況なのは百も承知。でも、この“聖地”での一戦で諦めるなんて選択肢は存在しない。中台は、チームは、改めて前を向き直す。 45+1分。奇跡へのアクセルが踏み込まれる。左サイドから途中出場のMF鈴木晴弥(1年)が上げ切ったクロスを、FW前田勘太朗(2年)がヘディングでゴール右スミへ流し込む。2-3。一気に変わったスタジアムの空気感。「時間がないのはわかっていたんですけど、もちろん自分が決めようという気持ちはありました」。中台にもさらにスイッチが入る。 45+4分。DF秦樹(2年)のフィードを左サイドで前田が収めると、ペナルティエリアの中には11番だけが走り込んでいた。横浜FCユースは5枚の交代カードを切り終えた後に、接触で倒れ込んだ選手のプレー続行が難しく、この段階でピッチに立っていた人数は10人。リスク管理も必要な状況だったが、中台は冷静に勝負所を見極めていたのだ。 前田の完璧なクロスが届く。「サイドハーフだったんですけど、フォワードっぽくゴール前に飛び込みました。勘太朗がセンターバックの1個後ろにポーンと落とす形でボールをくれたので、死ぬ気で触ろうとは思って、少しコースを変える感じになって、『当たったな』という感じはありましたし、『これは入った!』という感じでした」。中台の完璧なヘディングがゴールネットへ吸い込まれる。狂喜乱舞。ベンチから次々とチームメイトが殊勲のスコアラーへ向かって走り出す。 「個人だけの問題ではないですし、仲間が繋いでくれたものに対して、自分が信じて走り込まないといけないという気持ちもありますし、仮に勘太朗のボールがあまり良くなくても、次の人が上げてくれるのを何回も待つしかないと思ったので、そこは信じ続けられたかなと思います」。 仲間を信じ、自分を信じる11番が叩き出した、2か月前の苦い思い出を払拭するような劇的な同点ゴール。ファイナルスコアは3-3。凄まじい激闘を最後まで見届けたスタンドの観衆は、タイムアップの瞬間からしばらくの間、ピッチの選手たちへ惜しみない拍手を送り続けた。 2年生だった昨シーズンからスタメン起用も多かった中台だが、最高学年になった今季は改めて結果に対する意識を高めているという。「2年生の頃はチームの一員として戦ってはいるけれど、ゴールという結果は少なかったので、今年はチームを救うことにしっかりフォーカスして、去年とは違う自分を見せようという気持ちがあります」。 ここまでプレミアで決めている4ゴールのうち、3つのゴールは勝利に結び付いている。とりわけ9月18日に行われた昌平高(埼玉)とのアウェイゲームでは、後半に貴重な決勝ゴールをマークして、勝点3の獲得に大きく貢献。この日の得点の意味を考えても、チームを救う活躍を披露してきていることは間違いない。 残されたリーグ戦は7試合。首位に立っている横浜FCユースがタイトルを引き寄せられるか否かは、ここから先の自分たち次第。ただ、そんなことはもう全員がわかっている。中台はきっぱりとこう言い切った。 「もちろん優勝を狙っていますし、今日も同点ですけど、勝たなきゃいけない試合だったので、こういう試合を絶対に勝ちへ持っていって、下との差をどんどん付けていかないと優勝は難しいと思います。まだ2位との差はそんなに大きくは広げられていないので、ずっと勝ち続けて、勝点3、3、3を積み重ねていければいいかなと思います」。 自分の中心に据えたベクトルは、いつだって前へ、前へ。積極的に、アグレッシブに、サイドを駆け抜けていく横浜FCユースのナンバー11。この日も『三ツ沢の奇跡』を呼び込んだ中台翔太がこれからも狙い続ける明確な結果は、若きハマブルーが期すプレミア戴冠に向けて、絶対に欠かせない。 (取材・文 土屋雅史)