「孤独死が発生しています」憧れだったマンション群でまさかの掲示 都心の一等地なのに超高齢社会…日本の未来の縮図で起きた悲しい現実
遠藤シマ子さんは、86歳の今も現役のヘルパーだ。毎週2回、早起きしてバスで全身まひの男性宅へ通い、身の回りの世話全般を担当する。帰宅は深夜になることも多い。 【写真】「本籍・住所・氏名不明、年齢75歳ぐらい、女性、身長約133cm、中肉、右手指全て欠損、現金34,821,350円」一体誰なのか ミステリーを追う(前編)
東京・新宿区の都営団地「戸山ハイツ」で独り暮らしをしている。総戸数約3千戸の大規模なマンション群は、1960~70年代に建てられた。当時は、好立地や手ごろな価格から爆発的な人気を呼んだが、現在は住民の半数以上が65歳以上の高齢者とみられている。都心に生まれた局所的な「超高齢社会」。遠藤さんは昨夏、友人を失った。孤独死だった。「明日はわが身だわって思ったの」。日本の「未来の縮図」のような場所で今、何が起きているのか。(共同通信=鷺沢伊織) ▽70年代は入居時に抽選、1500倍 戸山ハイツは、JR新宿駅の北東約2キロの地点にある。戦後の住宅難を解消するため、GHQの提唱によって旧陸軍の学校跡地に平屋が建てられた。その後、中高層住宅への建て替えで人気の住宅地に。1970年代の新聞記事には、入居のための抽せんで、約1500倍の高倍率で3DKの部屋を射止めた4人家族の話が紹介されている。小学校や公園も隣接し、当時は都民の憧れの住まいだった。
遠藤さんが住み始めたのは20年以上前。当初の印象は「緑が多くて、なんて良いところなんだろう」。 夫は10年前にがんで亡くなり、独り暮らしが続いているが、団地の集まりに積極的に参加し、趣味にも精を出す。はじけるような笑顔で「1日が24時間じゃ足りないのよー」と話してくれた。 ▽「帰りはヘトヘト」 ヘルパーをするのは月曜日と金曜日。勤務時間は毎回12時間にも及ぶ。午前6時に起床し、7時50分のバスに乗る。9時には別のヘルパーが男性の体を拭きに来るため、それまでに適温のお湯、着替え、タオル、おむつなどをそろえておく。 ほかにも食事の補助、電話対応もこなし、午後9時20分の最終バスで帰路につく。 「帰りはヘトヘト」 寝過ごして先の停留所から歩いて帰ったことも。帰宅して簡単に夕食を済ませ、家事をこなす。寝られるのは午前1時ごろだ。 娘からはたびたび言われる。「母さんの年齢だと、ヘルパーの助けを受ける側だよ」