「母になって後悔してる」を考える。「母性神話」に押し込められた女性たちの叫び
父親は後悔しない?
柏木: 母親の後悔を語る上で、お二人は男性側の視点についても取材しています。「子育ては女性がするもの」という考え方がまだまだ社会では根強く、周りが女性たちに求める“母親像”の水準は高いのに、夫やパートナーの父親としての存在自体が希薄なため、いろいろな掛け違いが生まれているようにも思います。父親の存在についてはどのように感じましたか? 依田: 「父親になって後悔している人っているのかな」という声を聞きました。以前に比べて、若い世代の父親は育児に積極的ですが、依然として、母親が子育ての主体とみられることは変わらず、周りからも「お母さんの方がいいよね」などと言われてしまう。母親は父親と違って、四六時中子どものことを中心に考えてきちんと面倒を見る存在だと見られがちです。男性側が、あくまで子育ての「協力者」という立場の場合、責任を負うこともなく、後悔するような気持ちにまで達しないのではないでしょうか。 そして、その男女差がなぜ生まれるのかと考えると、家庭内での育児・家事分担の比重だけに限らず、社会が背負わせる母親の役割の重さも、本質的な問題のように思いました。 髙橋: 男性の育児参加を阻むような社会環境もありますよね。この本を担当した男性編集者は、子どもの検診に両親で付き添ったところ、注意や助言を受けるのは母親ばかりで、隣にいる自分は疎外感を覚えたという体験をしたそうです。男性の中でも、子育てに対して非常に積極的、あるいは全く参加しない、など、スタンスは人それぞれ。職場では「男性だから子育てにはそれほど関係しないでしょ」とされ、実は家事や育児をパートナーと分担していれば、労働時間や評価などでハンディを負う人がいるかもしれません。 柏木: 男性が育児のために時短勤務をする環境が整っているとは、まだまだ言えない状況ですよね。男性にとって、生き方のパフォーマンスを評価される主な基準は「仕事」なのかもしれませんが、女性には、母親として、妻として、そして仕事面でも、それぞれ評価の物差しがあてられ、たくさんのハードルが待ち受けています。職場では、女性が出産して復職後に時短勤務を選んだりすると、いわゆる出世コースから外され「マミートラック」に陥る問題もあります。 対談の後半では、母親の後悔を知った子どもの視点や、家族のかたち、子育てを巡る社会課題について、考えていきたいと思います。