新型「パッソ」はトヨタとダイハツの未来を指し示す“事件”
今年1月にダイハツ工業を完全子会社化したトヨタ自動車から、新型「パッソ」が発表されました。一見すると、けっして派手とはいえない小型車の全面改良ですが、モータージャーナリストの池田直渡氏は、“重要な事件”だと指摘します。新型パッソから何が見えるのでしょうか。池田氏の解説です。 【写真】“トヨタ帝国”に死角はないのか? ダイハツ完全子会社化の戦略を読み解く
位置づけが難しい「パッソ」
4月12日。トヨタはパッソをフルモデルチェンジした。 パッソは実質的にトヨタの最小クラスを担う量販車で、1998年から2004年まで作られていたデュエットの後継車として2004年にデビューし、今回で3代目となる。デュエットの時代からずっとダイハツとのコラボレーション商品として存在してきたクルマである。 ご存じの通り、今年1月にトヨタはダイハツの完全子会社化を発表した。その記者会見で強調されたのは「ダイハツの小型車設計力」と「世界戦略」という二つのキーワードだ。その二つのキーワードの中心にあり、むしろキーワードの母体となったクルマこそ、歴代「パッソ/ブーン」である。つまり新型パッソ/ブーンは、完全子会社後のトヨタとダイハツの関係性を大きく指し示すものになり、同時にトヨタ・グループのグローバル戦略が見えるクルマになるはずだ。日本の自動車産業として新型パッソ/ブーンの登場は“重要な事件”なのだ。 さて、教科書的な説明をすれば、そのパッソ/ブーンは、国内ではセカンドカー需要を満たすための軽自動車以外の選択肢であり、日常的な使い勝手の良さや取り回しの良さに加え、優れた経済性が求められるクラスでもある。 ざっと求められる性能を挙げてみよう。 ・コンパクトなボディサイズで取り回しがしやすい ・上のクラスのヴィッツと車両価格で有意な差があること ・居住性向上が著しい軽自動車より広い室内空間を持つこと ・燃費性能が優秀であること ・買い物グルマとして収納などの日常的使い勝手が優れていること ・運転しやすく疲れない走行性能を持っていること こうして並べて見ても、パッソ/ブーンの商品的立ち位置はかなり複雑だ。位置づけとしては、Bセグメントのヴィッツより下でなくては存在意義がないし、かと言って下には税制面で圧倒的に有利な軽自動車が控えている。性格付けを振り切る方向ではなく、両者の間を狙い澄まして価値を創出しなくてはならない。極めてニッチなのだ。と書いたところで、実はそれは国内マーケットの話だ。新型パッソ/ブーンに取って本当に大事なのは日本マーケットではない。